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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年6月14日付け

 先月、尾山多門さんが92歳で亡くなり、アマゾン・パリンチンスに住む唯一の日本人ではなかろうか。戸口久子さん(78、宮崎)にお会いしたのは09年。俳句を嗜まれ、句集まで出版されているとのことで、作品を拝見した。邦字新聞の配送用包み紙に認められているのを見て、嬉しくなったことを覚えている。そのなかで「樹海の緑のなかに桜一本」が目を惹いた▼俳句に不勉強なコラム子だけに、その巧拙ではない。アマゾンと桜という意外さだ。「鳥が持ってきたのかしらね」と事もなげだったが、桜ではなかったのかも知れない。郷愁がそう思わせたとのありきたりな解釈もどうか。60年近くもアマゾンで日本語を紡ぐ戸口さん自身を重ね合わせることで〃桜〃一点のイメージが広がった▼暑いと咲かないというのは確かにそうらしく、ある程度の寒さがなければ開花しないとか。ブラジルでは、これから花見の季節が始まる。一般的に最初に咲くのは、パウリスタ線ガルサだという。つまり標高600米あたりで一線引かれることになる。もちろん、それ以下では無理ということではなく、咲くことはあるが、突然変異的なものが多いようだ▼リベルダーデ緑化運動の一環で桜の植樹をすすめる宮城県人会(11・3209・3265)の中沢宏一会長がそうした情報を集めている。暖地でも咲く桜を元に、品種改良を施し、ブラジル中で咲かせたいという思いからだという。「無謀な花咲かジジイ」との言葉が頭をよぎったが、アイデアだけでも面白い。最後に戸口作品をもう一句。濁った河の色との差がいい。「来し戻し波に洗われ桜貝」(剛)

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