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特別寄稿=私たちの邦字新聞を守ろう=ブラジル日系老人クラブ連合会会長 五十嵐司

ニッケイ新聞 2012年7月3日付け

 インターネットで調べると世界中には定期的に発行されている主だった日本語の新聞は約30紙ある。そして、私たちのような移住者を対象として発刊された邦字紙を持つ地域は、南北米のカナダ、アメリカ本土、ブラジル、ペルー、アルゼンチン、パラグアイとハワイの7カ所である。
 その全域で嘗ては数多くの新聞が発行され、活発な報道を行っていた。しかし今は昔日の面影はなく、発行日数、部数、ページ数の総てが少なくなっている。これは海外移住の事実上の停止と読者の老齢化によるものに他ならない。
 しかし、それはそうとしても、近頃大きなショックを受けたのは日本人集団地の一つである北米サンフランシスコで起こった、伝統ある2紙「日米タイムス」と「北米毎日」の相次ぐ廃・休刊のニュースであった。そして、あとに残されたのは店などに置いている無料配布の日本語広告祇だけとなってしまったことだ。
 日系人の比較的多いロスアンゼルスの「羅府新報」の方はまだ続いているが、発行日数を減らして苦闘している。北部のシアトル市の「北米報知」と更に北の国のカナダでは、「バンクーバー新報」はまだ発行を続けているが、最大であった「日加タイムス」の方は活字報道を停止して、インターネットでの報道だけになってしまった。
 パラグアイの「日系ジャーナル」は月に2回だけの発行、アルゼンチンの「らぷらた報知」やペルーの「ペルー新報」は健在だが日本語のページは少なくなった。
 海外最古の歴史を誇る邦字紙の「ハワイ報知」は経営困難を乗り切るため日本内地の新聞の経営参加を得て滞在日本人・在住日系人のためにサービスを続けている。
 このように各地の邦字紙の置かれた状況は容易でない事が分かり、ブラジルではまだ日刊邦字紙2紙を持っていることを幸いに思う。
 しかし、その「サンパウロ新聞」および「ニッケイ新聞」の当局者たちの話を聞くと、最近の読者の著しい減少、それに伴う広告収入の低下、制作・配達等の経費の増大などで、経営は困難の限界に達しており、報道人としての使命感でボランティア精神を振り絞って頑張っているものの、このままでは減刊や経営の再編成なども視野にいれて考えねばならないような極めて深刻な状況になっているということである。
 日本語による報道と将来の運命を共有する私達読者はこのように重大なことをただ傍観していてよいのだろうか。もし、サンフランシスコの2紙のように、サンパウロの2紙が廃刊に追い込まれるようになったら、我々はどうなるのか。私は目の前が真っ暗になるように思う。
 あの戦中戦後、日本語新聞禁止のため正確なニュースが伝わらなくなったコロニアがどれほど大きな混乱に陥り、多くの犠牲を払わねばならなかったか、ということを思い出す。
 今日まで何十年もコロニアのために働いてくれて、今苦境のなか戦っている邦字新聞に対し私たち読者も精一杯の応援をしなければならないと思う。購読者増加への呼びかけ、取材、広告への協力、配達手段への便宜提供など、できるだけのことを考えようではないか。

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