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「三国戦争の再現か」=憤慨するパラグァイ国民=メルコスールの仕打ちに=坂本邦雄

ニッケイ新聞 2012年8月9日付け

 予想された通り、なるべくしてなったと言う感じである。先月31日にブラジル連邦(輪番議長国)首都ブラジリアのプラナルト宮殿に於いて(当初はリオ市予定)、ジウマ・ロウセフ大統領の招集により、創立正会員国パラグァイを無視して開催されたメルコスール特別首脳会議で、チャベス専制下のベネズエラ国のブロックへの加盟が正式に承認された。
 これに先立つフランコ新政権の否認問題や、パラグァイ国の正会員資格停止などにまつわる国際世論は、賛否両論がまちまちであるが、パラグァイ側から見ればどう如何にも〃ゴリ押しのジャングル法則〃の仕打ちとしか映らないのである。要するに端的に言って、〃チャベスの横車とラプラタ諸国(アルゼンチン、ウルグァイ)の統合失調症、それにブラジルの帝国主義〃が正当な〃法の支配〃を麻痺させたのである。
 従来メルコスール創立正会員4国中のパラグァイとウルグァイは、往々にして同僚の伯亜両国の大国らしからぬ取り扱いにしばしば泣かされて来た。この同病相哀れむべきウルグァイが、今度も結局は伯亜側に付いたのは、遺憾ながら嘗ての昔の不幸な〃三国戦争〃の再現だと、パラグァイ人は嫌でも思い起こすのである。
 いわゆる〃三国戦争〃(1865ー70)は、南米で最富強国と言われた当時のパラグァイを世界最強のビクトリア朝(大英帝国)の政略支援でブラジル、アルゼンチン、ウルグアイの連合軍が5年間余りにも亘り攻略した殲滅戦だったが、遂にグワラニー魂までは叩き潰し切れなかった。
 そもそもパラグァイは南米の解放者ホセ・デ・サンマルティンやシモン・ボリーバルよりも遥か以前、パラグァイの独立運動の前触れと言われるコムネロス反乱(1717ー35)を起こしており、他の国々の様にサンマルティンやボリバルの世話になった事はないと言うプライドがある。そんな所へ極左のチャベスがボリーバル協和思想に基づいた〃21世紀新自由主義〃を、内政干渉の如く持ち込んで来ても、パラグァイ人は体質的に馴染めないのである。
 中道左派の元司教フェルナンド・ルーゴは有権者を旨く欺いて大統領に当選したが、就任当初より何時までもハッキリした施政方針を明かさないままで、パラグァイを共産化しようとしていた腹だった事は、今になって国民は思い知らされたのである。これを国会が上下両院の絶対多数決で弾劾裁判にかけてルーゴを更迭追放したのは、主権在民の当然な処置以外の何ものでもなく、寧ろ遅きに失したと言えるのである。
 然し、この反動がフェデリコ・フランコ新政権の無視や、メルコスールその他各ラ米共同体での、我が国の会員資格停止等の行為に現れ、現在パラグァイは国際社会で孤軍奮闘の立場にある。
 一方パラグァイの反応は至って冷静で、「我々の行動は正当であり、間違いはパラグァイの政変はクーデターに依ったものと極め付ける各国にあるのであって、これは地域の統合プロセスに大きな害を侵している。今回のパラグァイに対する仕打ちほど酷い例は嘗て見た覚えがない」とは、ホセ・アントニオ・モレノ・ルフィネリ元外相や多くの有識者の異口同音の意見である。
 因みに最近の当地ABC紙が行った世論調査を見ると、パラグァイの賛同なくして強引に決行されたベネズエラのメルコスール加盟は84%の者が非合法であると述べ、79%はメルコスール、ウナスール等、パラグァイの正会員国資格停止の一方的な処置は不当だと受け止めている。
 そして、国会のルーゴ前大統領の更迭弾劾決議は56・3%の市民は当然だとしており、36・2%は諸国が騒いでいる様なクーデターなるものは無かったと理解している。
 腹黒い国際政治の〃複雑怪奇〃な動きの中でパラグァイは〃三国戦争〃に又しても負けた弱小国の悲哀を噛み締めるのだが、今回の〃ルーゴ降ろし騒動〃の結果、一番〃ほくそ笑んだ〃のはベネズエラのチャベス大統領だとする国際社会の世論の処、実は長期的に最も実益を得たのは、打算的な判断に徹したブラジルのジウマ・ロウセフ大統領だと言われている。

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