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パラグァイ=踏んだり蹴ったり散々=どの道を行くべきか=坂本邦雄

ニッケイ新聞 2012年9月6日付け

 南米南部共同市場(メルコスール)は当初、ブラジル及びアルゼンチンの提唱により始まり、それにウルグァイとパラグァイが加わって創設された。つまりラプラタ流域4カ国に限定された共同市場開発協定である。いわゆるこのアスンシォン条約は、1991年3月26日にカルロス・メネン(亜国)、F・コロル・デ・メロ(ブラジル)、アンドレス・ロドリゲス(パラグァイ)及びルイス・A・ラカリェ(ウルグァイ)の各大統領署名の下に発足し、翌年の11月29日に全効力を以って発効した協約である。それからのち、パラグァイは同条約から派生する義務を忠実に遵守して来た。

本来の創立趣意はどこに

 ここで明確にすべきは、「メルコスール創設本来の趣意は何であったか」と言う事である。それは即ち、加盟諸国夫々の地政学的ロケーションによったものである。お互いの問題の格差は大きく深遠であった。然し、4カ国同士の貿易不均衡の弊害は深刻だが、一方メルコスールの前途は無限に有望であると言う認識でもあった。
 メルコスールの現実、または将来ありうる諸問題の究明や解決対策の策定に多くの実業家、法律家、学者や有識者が協力した。ただし、遺憾ながら法制上の進歩は見られたが、利害的には公平な恩恵は得られなかった。大国のアルゼンチンと、ブラジルのいずれも保護貿易主義に走った。そこへ反民主主義のウーゴ・チャベス大統領が君臨するベネズエラ国が現れ、メルコスール加盟を迫った。
 チャベスのベネズエラは新たな問題を提起するものである。石油王国でオイルダラーの上に乗っかって、その財政経済は石油輸出と農産品輸入に大部分を依存する。かようにいびつなベネズエラの加入はメルコスールに益せずと解し、パラグァイは拒否し続けた。しかし、チャベスは別な土俵で相撲を取り、パラグァイの大統領を買収した。そしてルーゴ大統領が在権する限り、何れベネズエラのメルコスール加盟は必ず実現する運びにあるとチャベスは踏んでいたのである。
 つまるところ、国内の色んな情勢と「身から出た錆の〃行政不振〃」の問題があいまって、遂に国会はルーゴ大統領を弾劾裁判の挙句、罷免更迭してしまった。この跳ねっ返りでパラグァイは不法にメルコスール正会員国の資格停止を喰らい、更にブラジル、アルゼンチン及びウルグァイの三国は、パラグァイの合意がないままで、ベネズエラをむりやりにメルコスールの正会員国に押し込んでしまった。

法の論理の外なる世界で

 パラグァイは、全てメルコスールの制度を守って行動して来ており、今度のベネズエラのメルコスール加入は無効と判断する。しかし、現実は正にそこに厳然として存在するのである。既にベネズエラは正門ではなく、裏口でもない窓から入り込み居座ってしまった。これでは法の理論は通用しなく、とても抗議を聴き容れる耳も期待は出来ないであろう。
 総選挙による次期新政権が来年8月15日に就任した後のパラグァイの未来図は、政治的な道理、尊厳、主権及び経済的な諸問題を包含したポーズのものでなくてはならない。これは、パラグァイのメルコスール正会員国の資格回復に際し、国威を賭けた相当な強硬主張条件と成すべきものある。
 しかして、その時パラグァイは何も無かったかの様に敢えて、チャベスのベネズエラと同じ机の席に着くのであろうか? わが共和国の立場からするとそれは不可能ではないにしても、極めて煩わしい問題である。だが、メルコスールに居続ける事は即ち、無法治共同体にわが国を甘んじて存続させるのに等しいのである。
 メルコスールに於けるパラグァイの将来性は甚だ疑問で、過去多年に亘り何等の裨益もなかった事を思えば、メルコスールに居続けるのに、特に納得できる理由は見当たらないのである。

なんの裨益があるか

 では、パラグァイはメルコスールで発展が望めるか? メルコスール外での可能性は? この疑問は確かに残るであろう。しかし、メルコスールでの進歩はすこぶる怪しいものである。
 メルコスール外では世界との貿易が可能である。機会均等の可能性は同一である。唯一我々の勤勉と英知のみが求められるだけである。吾が国がメルコスールに居るのは、居心地の悪いパラグァイ嫌いの〃クラブ〃の会員であるのに等しい。
 パラグァイはメルコスールに替わる諸外国との貿易協定の交渉を行う為に、12カ月の時間の余裕がある。このメルコスール正会員国資格停止期間中に英知を以って、直ちにメルコスール代替案の策定を急ぐべきである。メルコスールを忘れて、まずパラグァイの事を考えるべき好機を得たのである。
 最近のパラグァイの政治動向は大変目まぐるしく、一概の解説は難しくまた危険であるが、上記は当地の多くの有識者の意見を反映した各新聞記事の世論要約である。
 もちろん人の意見は様々で、慎重論としては「2013年4月21日の次期大統領総選挙(同年8月15日就任)の結果を待つべき」とするほか、「来る10月のベネズエラの大統領総選挙でチャベスの続投を阻止し、反対派の大統領候補が当選でもして、南米の政治地図が塗り替えられればメルコスールの事情もまだ大分変わって来るだろう」とする話もある。いずれにしても、これからが正念場だ。

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