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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年10月16日付け

 京都大学の山中伸弥教授にノーベル生理学・医学賞が贈られることになった。言うまでもなく「iPS細胞(新型万能細胞)」の開発に成功したのが認められたのだが、将来的には、病気などで傷んだ臓器をiPS細胞を利用して置き換える「再生医療」も決して夢ではなくなった。とにかく—山中教授の研究は、今の医療技術を一変させるような化け物のようなものだと専門家は語る▼それにしても、山中教授は若い頃からスポーツが大好きで今でも趣味のジョギングを続け、研究を離れるとその辺で見掛ける気さくな小父さんになり「俺は今なら谷亮子に勝てる。こうすれば勝てるんだ」と熱を帯びて語るそうだ。事実、中学、高校生の時には柔道に熱中し、神戸大学医学部入試の前日も道場で猛練習し汗を流したのエピソードが今に残る▼そんな同級生に近畿大学理事長の世耕弘成さんがおり、母校である高校の頃の思い出を話しながら「山中君がひまになったら同級生たちと居酒屋でどんちゃん騒ぎをしたい」と、親友への気配りを見せる。山中教授は、整形外科を目指したのだが、他の医師が20分で済ませる手術に2時間も掛かり教授らから「邪魔ナカ」と呼ばれたりしたので基礎研究に転じたと述懐し、これが世界の偉業に繋がって行く▼iPS細胞の開発には成功したけれども、これが実際の病気治療に生かされるのには、最低でも10年ほどが必要らしく、世界の医学界が取り組んでいるが、山中教授と同僚らの研究も一瞬たりとも止めるわけにはいかない。と、ノーベル賞は喜ばしいが、山中教授らの智の闘いはこれからも続く。(遯)

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