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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年11月10日付け

 もう20年近くもの昔の話だけれども、サンパウロの近郊で「柏餅」を食べて唯々驚いたものである。あのしん粉を水で練って薄い皮にし、小豆餡を入れ平たく包んだものを柏の葉で包み蒸した餅菓子だが—この懐かしい味をブラジルで口にすることができるとは思っても見なかった。それまでに30年近くも、ここで暮らしていながら、端午の節句に花を添える「柏餅」の味とは遠かった▼いや、今もだがサンパウロの和菓子屋に「柏餅」はない。当方は和菓子が大の好物だし、兎に角 餡子がいい。近頃はブラジル風が強くなったせいか、餡が甘すぎる嫌いはあるけれども、それでも舌は大歓迎で気持ちよく迎えてくれるし、これに—煎茶の淡い渋みとがしっくりと馴染み明鏡止水に近いような境地になれるのだから何とも気持ちがいい▼この貴重な体験をしてからサンパウロに帰り故・橋本梧郎氏に問い合わせたところ、ここにも日本の柏の木があるとのお話だったので—あの子どもの節句の「柏餅」と同じ菓子だと仲間と話し合ったものである。ところが—である。こんな雑談をしていたら同僚の女性編集者が「私、県連の日本祭りで食べましたよ」と話すのでびっくりし「何時頃ですか」と訊ねると「2、3年前かしら」とのことだったが、残念ながら県人会の名は忘れたそうである▼水巴は「柏餅古葉を出づる白さかな」の一句を詠むが、こんな柏餅の昔話は、確か—きょう10日から始まるモジのコクエイラふるさと祭りで求めたものであり、あの柿の里のお母さんらが、額に汗ししん粉練りや蒸し器を見つめのだろうな—と何とも懐かしい。(遯)

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