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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年1月30日付け

 まるでアウシュビッツのガス室だ——南大河州サンタマリアのボアッテ火災で231人が亡くなり、129人の負傷者のうち75人は有毒ガスを吸って重態だと聞き、背筋が凍った▼無事に逃げ出したのに、中に残った人を助けようと外壁を崩す作業を手伝っていた若者が、懸命に作業している間に有毒な煙を吸ってしまい、数時間後に意識不明に陥ったとの報に接した時は、献身的なブラジル人気質に感動を覚えた▼燃えると有毒ガスを出す内装部材に対する規制が緩すぎる点、出口一つの大量集客施設に地元消防署がかつて営業許可を出していたという許認可の曖昧さ、火事の直接の原因になった花火演出の危険性など、様々な責任問題が複雑に絡んでいる▼W杯など国際大イベントを控えた時節柄、世界中のマスコミから当地の運営能力を疑問視する声が上がるのも無理はない。政治家は法律を厳しくして成果を強調するだろう。でも、法律改正だけでは解決にならない。予算の関係で、法律を守らせるフィスカルが常に足りないからだ。つまり当地の問題の根本は、法律ではなくその運用だ。法律運用の究極の解決策は、幼少期から遵法精神を植え付ける教育を強化することではないか。もっとも、数十年前からこの議論は繰り返されている▼今事件が起きた27日は奇しくも国際ホロコースト記念日。南大河州はナチス将校の「死の天使」ヨゼフ・メンゲレが南米を逃げ回った地の一つ。同州カンジド・ゴドイ市は双子の出生率が異常に高い「双子の地」として有名で、一説にはメンゲレが〃人体実験〃した成果とも。独系子孫の多い因縁の州でこの日に、こんな事件とは…。(深)

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