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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年2月5日付け

 パラグアイの次期大統領選候補の一人が、2日にヘリコプター事故で亡くなった。軍政を倒した国民的英雄の1人というが、同国の歴史に疎いコラム子には、1月27日に南大河州サンタマリアで起きたナイトクラブの火災や、1月17日にリオ州ニテロイで起きた水害での名も無き英雄達が気にかかる▼サンタマリアでは、一度は外に逃げおおせたが、妹の無事を確かめると、現場に取って返し、少なくとも14人の命を救ったが自らは倒れた青年、煙を逃がし消火活動を助けるために壁を壊した後に入院した青年などがその一例だ。元ミス・ブラジルで同市出身の女医も父からの連絡を受けて馳せ参じた。同州出身でカナダの大学の教授が保健省の要請で帰国し、被災者支援をしている例もある意味で英雄だろう▼一方、ニテロイでは、2歳と3歳の子供の世話を頼まれた13歳少女が、大雨でがけの上の塀が倒れてきた際、子供達を抱え込んでその命を救ったが自らはその場で果てた。サンパウロ州海岸部で1月に起きた14歳少女による自動車強盗殺人事件では、「家族を撃つなら自分を撃て」と体を張った男性が犠牲となった▼危険を省みずに、損得も無視して他者を助けた、自らの命も捨てたというほど華々しくはなくても、本人も知らない所で誰かの心を慰め、窮地を救った例は日常生活でも枚挙に暇が無い事だろう。一瞬、一瞬を悔いが残らぬよう生き、誰かの生きる方向や生活が変わるなら、名前が残るか否かは別問題▼ひょっとしたら後世、救われた人やその家族、町の人々がかけがえのない英雄とあがめるような人物が、今あなたの隣に住み、目の前に座っているのかも知れない。(み)

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