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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年5月3日

 10年前まで「電気炊飯器」といえば、ブラジル人からすれば「東洋街の日系商店にしか売っていない奇妙なエスニック製品」というイメージだった。「便利だよ」と勧めても、「ご飯はなべでニンニクと炒めてから炊くもの。専用の炊飯器などムダ」と言われたものだった▼ところが先日、サンパウロ市内の某ショッピングの大手家電販売店に入ったら、入口にズラッと売り出し中の炊飯器が並んでいて驚いた。日本の会社でなく、みな当地の会社だ。それを見て、ブラジル社会が急激に変化している軋み音が聞こえた気がした▼大都市では核家族化が進み、夫婦共働き増加を背景に、例の家政婦正規雇用法が決定打となって炊飯器が普及しだしたのではないか。しかも売り場には「炊飯だけでなく野菜調理にも」との謳い文句が踊る▼本来は、昔から東洋街では幅を利かせている「象印」などが地道に営業して一般社会に販路を広げていれば、今ごろ当国市場を独占していたかも——と思うと、ちょっと残念だ▼思えば20年前からデカセギは日本で炊飯器を使っており、それで「トルタやフェイジョアーダを作った」との話をよく聞いていた。その時は「一体どうやって?」と思い、ブラジル人の発想は「実に自由だ」と半ば呆れながら感心したものだった。でも今こそ、そんな経験を持つデカセギからアドバイスをもらって「ブラジル人向け炊飯器」を開発したらどうか▼日本の炊飯器を使い慣れたデカセギが4年で10万人も帰伯している。日本の製品を知っている彼らが口コミで一般市場に広げれば、「家政婦の代わりに日本家電を」という突破口にならないか。(深)

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