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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年8月14日

 藤本パトリシア被告に有罪判決が下った(7面に詳細)。彼女が05年、静岡県で交通事故を起こし、山岡理子ちゃん(2)が亡くなった。その直後に帰伯逃亡したので、山岡夫妻は犯罪人引き渡し条約締結を求める署名運動を始め、約70万人もの賛同者が集まった。そこから国外犯処罰は一気に注目を浴びはじめた▼有罪判決とはいえ、日伯の量刑差は歴然としており、遺族側にとって満足なものではないだろう。だが県警の調書内容が採用され、帰伯逃亡したことで量刑が増やされた判例ができ、被告の弁護士が主張する「無罪」が退けられたことの意味は大きい。控訴の可能もあり予断は許されないが、将来に向けて重要なのは、〃逃げ得〃を許さないような量刑差を解決する政府レベルの真剣な取り組みではないか▼ただし気になるのはネット検索する限り、ブラジルマスコミでこの件を報じたところがないことだ。国外犯処罰で初判決が出た07年2月、日本の報道各社40人以上がサンパウロ市の裁判所前に集結した。犯罪白書によれば05年に日本で起きたひき逃げ事件は2万7773件(うち死亡事故は254件)だったが、その中で最も報道されたのがこの事件だったろう▼一方、その時から当地マスコミは冷ややかで、「なぜ交通事故でこんなに騒ぐのか」的な扱いをした新聞まであった。当地報道機関が基準とする「ニュース性」とは違う何かが、日本のメディアには働いていた。おそらく「加害者=外国人、被害者=日本人」という図式自体に日本側に強烈な反応を呼び起こす何かがある。立場が逆転した時、同様に大きく扱うだろうか—事件と国籍の関係を考え込んだ。(深)

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