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ブラジルに於ける茸栽培の沿革と一考察=野澤弘司=(13)

ニッケイ新聞 2013年5月7日

《揺籃期》

 古本の初期のアガリクス試験栽培は、マッシュルーム同様、カッピンゴルヅーラ (シボウソウMelinis minutiflora Beauv)と称する牧草と稲藁主体のコンポストで、屋内棚式菌床と、環境温度の激変と虫害や野ネズミ等の天敵を回避する目的で、透明なビニールの三角錐の帽子で畝状の菌床を覆った露地栽培との比較栽培から始まった。
 1972年、古本はタピライのシチオ、サンタモニカに於いてアガリクスの人工栽培に成功した。種菌は小麦培地が良好だった。生産量は僅かだが乾物にして、滋養強壮食品としてサンパウロのノンキ堂書店で売り、顧客には斎藤ヒロシ、USP大学教授等も居た。当時は未だアガリクスの制癌剤としての薬効は解明されていなかった。
 当時モジのマッシュルーム栽培団地の台湾人栽培者、呉換竜も古本のアガリクス栽培に共鳴して長年共同研究を行った。その間の古本と交わしたキクラゲや椎茸に関する往復書簡約60通のコピーを、私は貴重な資料として保管している。
 今でこそ多少の経験と場所と幾許かの資金があれば、誰しもアガリクスやその他のキノコを栽培出来る時代になったが、往時は至難の業で試行錯誤を繰り返していた経緯や、各種キノコの人工栽培に挑む不屈の気骨が偲ばれる貴重な記録である。
 1975年、岩出研究所は古本に遅れる事3年にしてアガリクスの人工栽培に成功したとのことである。即ち、稲藁や砂糖黍のバカソ等を主体とし、各種微量要素で混成した畝状の菌床にアガリクス菌を接種してから、菌糸束が成長後に覆土して子実体を発生させる,菌舎内栽培の〃畝作り法〃で古本の栽培法と同じである。
 1978年、岩出研究所は1平方メートル当たり10kg/3ヵ月の収量を得て、商業的採算ベースに乗る栽培法を確立したとの事である。
 同年日本の癌学会に於いてアガリクスの制癌効果が公認された。ランバートによりアガリクスの抗癌作用に就いての論文発表があった。
 また三重大学を中心としたカワリハラタケの人工栽培の研究に平行して、薬理効果の基礎研究と臨床実験に裏打ちされた実績評価の高い制癌剤として、薬効が漸次判明し、健食業界でのアガリクスフィーバーは加速した。
 1980年、第39回日本癌学会総会に於いて、抗癌作用のある事が公表されて以降、市場でのアガリクスの需要は激増した。日本でのアガリクスの知名度が全国に伝播されピークに達したのは1990年の半ば頃であった。
 古本はアガリクス栽培の研究に没頭した為、マッシュルームの事業が疎かになり、農場運営が行き詰まって来た。私は当時ANB(ALIMENTOS NATURAIS DO BRASIL)社で商品開発を兼業していたので、ブラジル産アガリクスでの商品化には多大な関心を抱いていた。これより私はANB社が古本とアガリクスの商品化への共同開発を行うべく資金援助を仲介した。 また古本が生産したアガリクスは、ANB社が独占購入した。
 1985年,アガリクスを原料としたブラジルでは最初のサプリメント“MIRACRON”が商品化され好評を得た。更には当MIRACRONの記事広告が、有力誌MANCHETEに掲載され、古本のブラジルのキノコ業界に於ける貢献の詳細が、数ページに渡り久方振りに紹介された。

《隆盛期 当時の一般的なアガリクス栽培状況 種菌》

 モジ及びスザノ方面の台湾人も含め、数カ所の種菌業者から供給された。
 即ち、ブラジルの原野に自生するアガリクスから組織又は胞子培養した原菌、及び日本生まれの自称岩出101号菌を原菌とした同種異名のキノコの種菌が、マルシア、桑島、ウイリアム(台湾人)等の種菌専業者が培養して栽培者に供給された。またアガリクス栽培者が種菌を自給自足するケースが漸増した。種菌培地には小麦、玉蜀黍、とうもろこし等の穀実が使われた。
 堆肥=平均的な1ロット当りの堆肥の仕込量は、完熟肥料で30〜40トンである。これに必要な菌床材料はバカソが15トン(トラック1台半)、稲藁5トン、石灰、大豆粕及び石灰、燐、尿素等の化学肥料であった。(つづく)



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