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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(63)

ニッケイ新聞 2013年12月14日

 遊佐氏の音頭に合わせたアナジャス軍曹が、
「(?? ニシ・タニサン、どうして、この世に生還したことに?)」
「(実は私は死んでいました。ここの墓地に墓標が立てられていました)」
「(正に、仏教の教えで、死ぬ前に死んだのですね)」
「(そう言われればそうですね。私はマラリアで死の寸前にベレンの街に運ばれ助かり、そのままサンパウロに出て、それっきりここへ戻りませんでした。それで、こう云う事になったのです)」
「(あの頃は、住所がなく連絡しようがなかったからね)」と遊佐が西谷の過失を弁護する様に付け加えた。そして、
「あの〜、西谷さん、さっきから聞きたかったのですが・・・、その〜、トメアスに戻って来られたのは?」
「中嶋和尚を連れて、弔いに来ました」
「弔いを! ・・・、先没者の弔い? ですか? それで坊さんを連れて、トメアスまで・・・」
「お許し下さい。今頃・・・、遅れました」
 遊佐は、感激して、声をつまらせ、
「ちょっ、ちょっと待って下さい」そう言って、何か奥さんに指示した。奥さんは台所から急ぎ足で出て行った。
「で、西谷さん、その先没者の慰霊祭はどこで行いますか?」
「慰霊祭なんてそんな、墓地に行って、中嶋和尚に弔っていただきます」
「墓地でですか? それよりも、慰霊祭をここでやって下さい。お願いします」
「ここでですか?」
「ええ、是非お願いします。西谷さんがサンパウロから坊さんを連れてきたのですよ、私だって慰霊祭の場所ぐらい提供しなくては」
「ですが、私達は・・・」
外から日本人が、
「遊佐さん! 奥さんが呼びに来られたので」
「あっ、入れよ」
「失礼します!」そう言って大きな日系人が入ってきた。
「サンパウロから人が来たと?」
「あっ、紹介します。彼はここ生まれの二世ですが、しっかりした九州弁を話す日本人会長を務める中村君です」
「あれ?!」紹介された中村が少し考えて、「西、谷さん?・・・? 西谷さんだ! 正真正銘の西谷さんですよね」と何度も確認して、「生きていたのですね? てっきり死んどらっしたと思っとりました」
「?」西谷は彼を思い出せなかった。
「覚えとらんでしょう。私はまだ九歳の少年だったので、いつも水運びしとった省吾ですよ」 遊佐氏の音頭に合わせたアナジャス軍曹が、
「(?? ニシ・タニサン、どうして、この世に生還したことに?)」
「(実は私は死んでいました。ここの墓地に墓標が立てられていました)」
「(正に、仏教の教えで、死ぬ前に死んだのですね)」
「(そう言われればそうですね。私はマラリアで死の寸前にベレンの街に運ばれ助かり、そのままサンパウロに出て、それっきりここへ戻りませんでした。それで、こう云う事になったのです)」
「(あの頃は、住所がなく連絡しようがなかったからね)」と遊佐が西谷の過失を弁護する様に付け加えた。そして、
「あの〜、西谷さん、さっきから聞きたかったのですが・・・、その〜、トメアスに戻って来られたのは?」
「中嶋和尚を連れて、弔いに来ました」
「弔いを! ・・・、先没者の弔い? ですか? それで坊さんを連れて、トメアスまで・・・」
「お許し下さい。今頃・・・、遅れました」
 遊佐は、感激して、声をつまらせ、
「ちょっ、ちょっと待って下さい」そう言って、何か奥さんに指示した。奥さんは台所から急ぎ足で出て行った。
「で、西谷さん、その先没者の慰霊祭はどこで行いますか?」
「慰霊祭なんてそんな、墓地に行って、中嶋和尚に弔っていただきます」
「墓地でですか? それよりも、慰霊祭をここでやって下さい。お願いします」
「ここでですか?」
「ええ、是非お願いします。西谷さんがサンパウロから坊さんを連れてきたのですよ、私だって慰霊祭の場所ぐらい提供しなくては」
「ですが、私達は・・・」
外から日本人が、
「遊佐さん! 奥さんが呼びに来られたので」
「あっ、入れよ」
「失礼します!」そう言って大きな日系人が入ってきた。
「サンパウロから人が来たと?」
「あっ、紹介します。彼はここ生まれの二世ですが、しっかりした九州弁を話す日本人会長を務める中村君です」
「あれ?!」紹介された中村が少し考えて、「西、谷さん?・・・? 西谷さんだ! 正真正銘の西谷さんですよね」と何度も確認して、「生きていたのですね? てっきり死んどらっしたと思っとりました」
「?」西谷は彼を思い出せなかった。
「覚えとらんでしょう。私はまだ九歳の少年だったので、いつも水運びしとった省吾ですよ」

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