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山崎釼二と藤原道子の奇縁=最後の最後は同じ墓地に眠る

新年号

ニッケイ新聞 2014年1月1日
著書『波瀾の南十字星 山崎釼二の一生』を手に説明する岩田さやかさん

著書『波瀾の南十字星 山崎釼二の一生』を手に説明する岩田さやかさん

 「小説より面白い生涯を送った人物、山崎釼二の波乱万丈の生涯を描いてみたかった。〃事実は小説よりも奇なり〃を証明したかった」と溌剌とした様子で執筆した動機を語った。

山崎は戦前に労農運動から衆議に登りつめ、大戦中にはボルネオの県知事に任命されるなど一世を風靡した。そこで出会った現地の混血娘アインと結ばれて子供をもうけ、終戦後に正妻が待つ日本へ連れて帰国したことから〃二人妻事件〃として世間を騒がせ人生の岐路に立った。高峰三枝子がヒロイン役を演じた映画『南十字星は偽らず』が制作されるほど有名になったが、結局政治家に返り咲くことはできず54年にアマゾン移住、南聖に転住していた。

岩田さんは1930年に静岡県駿東郡小山町生まれ、東北大学卒業後、中央公論社書籍編集局などに勤務し、松本清張や司馬遼太郎の家にも原稿を取りに行った。「特に松本さんには可愛がってもらいました」と笑う。

「ああ見えて松本さんまったく酒を飲まない。天丼が好きなんです。一緒に食事をするにも気を遣う人。もともと気さくなんでしょうけど、なかなか気難しいところもある人で…」と笑った。松本清張と言えば編集者イジメで有名だ。さぞや苦労したことだろう。

☆   ☆

山崎釼二は静岡県御殿場市生まれだ。山崎家は元々と農家の大地主で、父亀太郎も町会議員、郡会議員を務めた実力者だった。岩田さんはその隣町の小山町の生まれで、母親が御殿場出身。母方の祖父が同市役所に勤めていた関係で、亀太郎が町議として熱心に乙女道路(箱根まで最短距離で抜けるトンネルのある交通路)計画などの督促や打ち合わせに来ていたと、子供のころから聞いていたという。

「ボルネオ帰りでアインさんを連れてきた時も、御殿場では大評判でした」と懐かしむ。子供のころから釼二の存在は有名で、身近なものだったという。富士紡績の向かいに自宅があったので、その前で釼二が工場に向かって演説していたこともある。「あの時の演説の話しっぷり、顔形などしっかりと記憶に残っています」。

調査執筆に2年間をかけただけあって詳細で生々しい。伯国側の取材では解けなかった多くの謎が解明された。岩田さんは「藤原道子は社会主義者として山崎を最後まで尊敬していた。自分と再婚すれば、山崎は政治家として再起できると信じていたと思う」という。

52年に藤原道子が来伯して面会した数カ月後、釼二は1958年1月31日にサンタクルス病院で肝臓ガンのために亡くなった。翌2月1日にヴィラ・フォルモザの無縁墓地に土葬され、曹洞宗日本人僧侶、新富良範と浪花宝珠によって葬儀が催されたという。

藤原道子は1962年10月にブラジリアでの列国議会同盟会議に出席し、二度目のブラジル訪問を果たしたという。その時に釼二の墓参りをしており、おそらくアインとも将来について話し合ったようだ。その一年半後、64年3月にアインと娘の朱美が遺骨を掘り起して帰国し、横浜港で藤原道子の長女栄実さんにそれを渡した。同4月に沼津市の霊山寺に埋葬されたことも、岩田さんから知らされた。

山崎釼二は、自分を同志として叱咤激励してくれるが、男として大事にしてくれないと感じる藤原道子より、若くて従順なアインを選んだ。それに伴い、政治家を諦め、開拓者の道を選びなおして渡伯した。ある意味、好きなように生きた男だ。だが、前妻はそんな彼が遺した人々の面倒を最後まで見続けた。

最大の謎の一つ、アインと朱美が帰国した際、どうして息子の讃南だけが当地に残ったかに関しても、岩田さんは「ブラジルに残りたいという本人の意思があったと聞いたことがある」という。ブラジル三菱商事の駐在員だったアインの再婚相手の名は菱沼恒浩(つねひろ)さんだと分かった。

藤原道子は帰国したアインや朱美の世話をみて74年に政界を引退、83年に急性肺炎で死去し、同県駿東郡の富士霊園に埋葬された。そして93年、藤原道子との長男嶺一さん(みねいち)の手によって、山崎の遺骨も富士霊園に改葬されたという。

方や日本で議員勤続25周年の有名政治家、方やブラジルで客死して無縁墓地――。長い間、地球を跨いですれ違ってきた夫婦だったが、最後は、すぐ隣ともいえる距離に眠っている。岩田さんは「同じ霊園のわずか500メートルほどの距離。最後の最後ぐらい、近くに埋葬したかったのかもしれませんね」とほほ笑んだ。

『波瀾の南十字星』著者に聞く

波瀾の南十字星

波瀾の南十字星

 2013年1月から掲載された連載「聖南開拓に殉じた元代議士・山崎釼二」の主人公、戦後移民の山崎釼二(1902―1958、静岡県)は、戦前に衆議、戦中はボルネオの県知事にまで上り詰めながら二人妻事件を起こして政治家に復帰できず、アマゾンに移住した。彼の生涯を詳しく描いた『波瀾の南十字星 山崎釼二の一生』(三一書房、1994年)の著者、岩田さやかさん(83、静岡県小山町在住)に執筆の動機などを13年9月26日に同沼津市で取材した。

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