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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(118)

ニッケイ新聞 2014年3月18日

『問題霊ですか』

《そうです。問題霊はいくら努力しても、成仏出来ないそうです。この世で他殺と判断されていればよかったのですが、森口さんの巧妙な手口で病死と判断され、森口さんに刑罰が下りません。その状態では成仏出来ないそうです。それで貴方達にお願いする為にローランジアに飛んできました》

『私達にお願い?! ・・・、それは、森口を捕らえる事ですね?』

《ええ、森口さんを捕らえ、裁きにかけていただきたいのです》

『承知しました。仇討は得意です。任して下さい』

《仇討ちなんて絶対ダメです! それこそ私は幽霊になってしまいます。 浮かばれても、正当な方法でないと、あの世には行けないそうです》

『仇討ちはダメで、それに、正当な方法とは? どんな裁きなのかな?』

《私も始めての死の経験で、どう云うものか分かりません。無理なお願いですが、よろしくお願いします。そうしないと、私は恨みを持って冥界をさ迷う幽霊になってしまいます。幽霊になるなんて怖くて絶対に嫌です》

『貴女が幽霊になる?! それはかわいそうだ。 何とかしましょう! しかし、如何して我々に?』

《お地蔵さまの部下の方が導いて下さいました》

『我々に協力を求めるようにですか?』

《そうです。私達の力が及ばないこの世での協力者として、取材気違いで便利屋の古川記者、ローランジアのお寺の住職で密教の達人の黒澤和尚、最近ブラジルに修行に来られた無鉄砲で根性ある中嶋和尚、その中嶋和尚を守るジョージ上村さんをお地蔵さまの部下の方が探して下さいました》

『あの世でも記者は便利屋と見ているのですか・・・。で、どうして森口がブラジルにいる事を?』

《森口さんがアメリカからブラジルに逃亡した事は大体わかっていたようですが、森口さん所属の教団に昔関係していた立花和尚が、ブラジルの黒澤光明和尚からの電子メールを受けた事でそれが明らかになりました》

『電子メール?』

《お地蔵さまのもう一人の部下の方が張り込みをしておられました。既に、一人はブラジルに来ておられます》

『それにしても、我々との接触がうまく出来ましたね』

《ローランジアは今、仏界や冥界で話題になっている所です。井手善一和尚が発見した最もこの世との出入りが容易な所で、私にも出来ると聞き、大急ぎで飛んできました。でも、到着すると皆さんお楽しみだったので、ローランジアのインターチェンジで待つ事にしました》

『ローランジアは特別なところですか?』

《はい、交霊もこうやって容易に出来る所です》

『コウレイ?』

《交霊とは、死者である私が貴方たち生者と話し合う事です。ブラジルにはローランジアの他にウベランジアと云う町も冥界で人気があるそうです》

『知っています。ミナス州のウベランジアには、もう、亡くなられましたが、世界的に有名な交霊者シッコ・シャビエールと云う方がいました。・・・、よし、この世の事はもう心配しないで下さい。我々に任せて下さい』

《それから、決して、ロス疑惑みたいにならないようにお願いします。では》

『あっ、田口さん、もうちょっと取材をさせて下さい』

《いえ、あ、はい、『聖正堂阿弥陀尼院』(せいしょうどうあみだにいん)と呼んで下さい。それに、これ以上ここにいては、生意気だと閻魔帳に載ってしまいますので、失礼します》

「古川さん! 古川さん、終わりましたよ」

「待って下さい! もうちょっと、取材を・・・、取材を是非・・・。お、終わった?」

「目を覚まして下さい」

「えっ」古川記者は正気に戻った。

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