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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(123)

ニッケイ新聞 2014年3月25日

「(どうしてだ?)」

「(説明するから銃口を俺から外してくれないか)」

「(説明!?)」

「(俺の名は古川。君は?)」

「(パウロだ。早く説明しろ)」

古川記者は『般若心経』を心に、

「(私がパウロにお金を貸せばいい)」

「(お前が俺に金を貸す?)」

「(そう、そうすればパウロは強盗ではなく、ただお金を借りた強盗になる)」

「(同じじゃないか)」

「(違う。第一に俺は強盗に襲われたのではなく、強盗にお金を貸しただけだ。第二に強盗パウロはお金を借りただけ、第三にパウロと俺が友人関係になる。ただ『縁』を変えるだけで事情が変わっただろう)」

「(? ・・・、なる・・・ほど、早速だ、五十レアル『二十五ドル』貸せ)」

「(ちょっと待ってくれ、その『貸せ!』を『貸してくれないか』に改めろよ、気分的に違うだろう?)」

パウロは舌打ちして、

「(そうすると、この金は後で返さなくてはならないのか?)」

「(返そうと思うだけでいい。しかし、五十レアルも欲しいのか? 困ったなー、タバコ代がなくなってしまう)」

「(タバコ切らしているのか?)」

「(めったに吸わないが、パウロの脅しで急に吸いたくなった)」

「(じゃーこれ吸え)」パウロはヨレヨレのタバコが入った箱を差し出した。

「(失敬する)」古川記者は一本引き抜いて口にくわえ、持っていないライターを昔の癖で探した。

それを察したパウロはライターを点け、古川記者の顔前に差し出した。

古川記者はその火で一服吸うと、強盗に遭ったくやしさが煙と共に消えた。

「(ありがとう)」と一言言ってもう一服吸って、

「(タバコ吸えたから、全額貸せるぞ)」

「(半分っこしようじゃないか)」

「(パウロは五十レアル必要だろう?)」

「(足りない分は、又、誰かに借りるさ)」

その時、道を挟んで巡回に来た東洋商店街組合が雇った私立警備員が二人に向かって笛を吹いた。

「(パウロ、帰った方がいいぞ、警備員が不審に思ったみたいだ)」

「(そうだな。又会おう、きっと金を返しに来るからな)チャオ、フルカワ」

「(じゃー、その日まで)」

パウロは三十レアルを手に闇に消えた。

古川記者は強盗パウロにもらったタバコをふかしながら家に向かった。

「(フルカワ! 待て)」パウロが戻って来たのだ。

「(フルカワ、この時間、タバコ買えないぞ、これ取っとけ)」そう言って、パウロはヨレヨレのタバコ箱を古川記者に差し出した。

「(じゃー、もう一本だけ拝借しよう)」

「チャオ」

「チャオ」

二人は別れを惜しんだ。

古川の心の底に僅かに残っていた悔しさが完全に消えてしまった。古川記者は逆に強盗パウロに会って『般若心経』を悟った様な気分で晴ればれした。

人々を思いやり、利他行(りたぎょう、他人の幸福を第一にする=利己主義の反対)の考えを重んじる『地蔵菩薩』とそれを見守っていた『観世音菩薩』が二人の頭上から去った。

第二十三章 非業

数日後、原因がつかめない不思議なオーバーブックが再度起こったJAN直行便の客の世話を終え、空港から戻ったジョージと、それを待っていた中嶋和尚と古川記者が、ジョージのインテルツール旅行社の会議室に集まった。

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