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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(130)

ニッケイ新聞 2014年4月3日

「タグチセイコは入院先の病院で亡くなった」
「院内感染と俺と何の関係がある」
「どうして死因を知っているんだ? これで七十五パーセントの確率になった。それに、タグチセイコがあの世からお前に殺されたと連絡して来た事で殺人が百パーセント証明された」
「そんなバカ話を誰が信じる」
「だから、お前が自白すれば直ぐにここから出してあげるがね。それとも後ろの二人からリンチを食らって自白するか、どちらかだ」
「仕組んだな!」
「不思議なもので、囚人達は自然に強姦犯を察知するんだ。この檻の中で一週間生き延びれば強姦罪は晴れる。それまで頑張ってくれ」
「一週間だと! 弁護士を呼べ!」
「ここはブラジルだ、お前の奇妙な英語を理解する義務はないし、お前の処置は一週間以内に該当領事館に連絡すればいいんだ。それまで生き延びればの話だが」
「この野郎!」
「(この日本人は、なにわめいているのですか?)」
「(ブラジル食が食べられないそうだ、水だけは与えてくれ。死なせたくないからな)」ジョージは森口のわめきを背に留置所を出た。

第二十五章 領事

午後、ジョージは新米刑事達を所属の警察署まで送ってやった。
「(あのままでいいのですか? 囚人達は奴が強姦犯と悟った様ですけど)」
「(奴は白い【素手の】武器の持ち主だ、自己防衛出来るだろう)」
「(これが有名なウエムラ式の拷問ですか)」
「(拷問ではなく、自白してもらうだけだ。弁護士や人権保護団体から何度も訴えられたが、検察局はいつも無罪と判断した)」
「(そこを学べとモンテイロ署長が言っていました)」
「(簡単だ、拷問に、絶対自分の手を汚さない事だ。それさえ守れば、自分も自分が所属する組織も安全だ)」
「(拷問は別の犯罪者に)」
「(毒には毒で応えるんだ)」
「(署長が『ウエムラ刑事は毒蛇だ』とも言っていました)」
「(誤解だ! 俺が狙った奴が毒蛇なんだ)」
「(あの日本人ですか?)」
「(毒蛇は自分の毒の恐ろしさを知らず平気で毒を使う。そんな奴が一番嫌いだ)」
「(ウエムラ刑事は犯罪人に好きなタイプと嫌いなタイプがあるのですか?)」
「(ハッキリと・・・。好きなタイプは罪を犯してまで人を助ける奴だ。日本映画に出てくるボーズの様に)」
「(ボーズ?)」
「(子供の頃、住んでいた田舎に、二、三ヶ月に一度、トラックに映写機材を積んで・・・、日本映画の野外上映が来るんだ)」
「(へ~)」
「(それはメクラのボーズが活躍する『ザトウイチ』やタカクラ・ケンの『ジンギ』もので、悪者だが憎めない奴で、弱きを助け悪を懲らしめ、女にもてて・・・、俺達はいつも、そのトラックを追って他の町まで何回も観にいったもんだ。俺たち二世はあの主人公に憧れ、そして日本人魂を知ったんだ)」
「(非情なウエムラ刑事が皆に好かれるのは、そんな意外な面があるからですね)」
「(俺が非情!?)」
「(警察組織内では非情なんだが情けがある、と、矛盾した事が伝えられています)」
警察署に着いた。
「(今日はこれで解散、明日九時、留置所に集合。奴が自白するのを観よう)」
「(はい!)」民間人のジョージに新米刑事達は軽い敬礼をした。

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