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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(133)

ニッケイ新聞 2014年4月9日

【なんだと~、・・・・・・、電話かわりました。西と申します。部下が電話に向かって怒鳴ったりしてどうもすみません。どうなさいました?】
「いえ、別に・・・、ただ、エンドウさんがどうも・・・」
【失礼しました。貴方は二世の方ですか? 日本語がお達者ですね】
「褒められるレベルではありません」
電話の向こうで遠藤副領事が【二世、三世の人権を尊重しろとか何とか、うるさい事ばかり言って・・・】
「お電話したのは、モリグチ氏の件で情報をいただきたいのですが」
【森口卓彦ですね・・・、ちょっとお待ち下さい・・・。・・・、森口卓彦は・・・、日本で逮捕状が出ております】
「どうして、エンドウさんはその情報を隠すんですか?」
【別に隠す必要はありません。遠藤君は領事館武官としてアメリカに渡り、先週こちらに来た者で、どーも、外務省での研修で勉強し過ぎた様です】
「すみません、私も彼を挑発し過ぎた様です」
【二世、三世の身分について主張されておられたそうで】
「主張だなんて、ただ、私は日本を愛し誇りに思っている事を伝えたかったのですが、つい怒ってしまい・・・、至らぬ事を言ってしまい・・・」
【至らぬ事ではありません。私は武官としてブラジルに二年ですが、この件について二世の方から意見を聞いたのは初めてです。前から疑問に思う事がありました。それは、なぜ百五十万にも及ぶ日系二世、三世の方が今の様な待遇を日本から受けるのかです。第二次大戦では日本帝国陸軍に従軍された二世までおられたのに・・・】
「そうなんですか、知りませんでした。私の祖父は日本帝国陸軍の兵士で、戦争で死ななかったからブラジルに来たそうです。友人の祖父は、シベリア捕虜は『アカ』だと言われ、日本に居た堪れずブラジルへきたそうです。その祖父達が熱心に日本語を教えてくれました」
【あなた方が勉強された日本語は、ただ日本語しか話せない一世を満足させるために終わり、残念です】
「それよりも残念なのは、日本国籍を持っていない我々二世、三世は一世の祖父や父が亡くなると日本とのつながりを完全に失くし、日本人の誇りも文化もなくし、日本人である自覚さえ失う事です」
【日本人でありながら、海外で生まれた事で日本政府から法的に日本人の資格を絶たれたのですからね。おっしゃる通り、このままでは一世がいなくなったらブラジルの日系社会は完全に日本や日本文化から離れてしまいますね。メキシコ移民がそう云う歴史を踏んだそうです。このままでは、百年近くかかってブラジルに根付いた日本文化も数年で無くなるかも知れませんね。心配です。他の国からの移民の子孫は母国の国籍も持っていると聞きましたが】
「おっしゃる通りです。学友のヨーロッパ系移民の子孫は母国から国籍と選挙権を自動的に保証されています。ヨーロッパ観光の団体旅行を時々企画するんですが、ヨーロッパのパスポートを持った二世や三世が以外に多く、ビザ手続きが楽だったのを思い出しました」
【二世とはどこの?】
「日系二世です」
【なぜ日系二世がヨーロッパのパスポートを?】
「ブラジル人と結婚した二世が結婚相手のヨーロッパの国籍を自動的に持っていました」
「本当ですか」
「他の国の移民は一世、二世の区別がありません。だから、日系社会みたいに一世が減少していく事で、母国の文化の伝承が無くなる心配は全くありません。二世も三世も一世なんですから自然にそれぞれの国の文化を継承しています。そしてそれがブラジル文化になっているんです。ヨーロッパ系だけでなく中東や他のアジアの国も自国の市民権を持っていますね。如何して日本だけが一世、二世、三世にこだわるのか? そして、我々二世、三世以降は日本国籍を剥奪されるのかが理解出来ません」

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