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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(135)

ニッケイ新聞 2014年4月11日

 十三時きっかりに西領事と遠藤副領事が『天すし』ののれんをくぐった。

「いらっしゃーい」この店の寿司マンでオーナーのオヤジが景気よく迎えた。

先に来ていたジョージが二人の雰囲気から領事と察知してテーブルから立ち上がり、自然に西領事を見分け握手しながら、

「ジョージ・ウエムラです」

「西です。どこかでお目にかかった様な・・・。どこだったかなー?」

「たぶん、空港でしょう。私は旅行社の者ですので」

「じゃー、警察の方では?」

「違います。あの二人はそうです」他のテーブルの二人を紹介した。

「ウエムラさんがなぜ?」

「元刑事です。問題を起こして組織を出たのと、担当していた事件の情報とか、所持している拳銃などで、完全に警察組織から離れていません。ま、ある程度監視下に置かれているようなもんです」

「で、どうして森口に関して情報が欲しいのですか?」

「その前にご注文を・・・」

西領事は板場から離れている事を考慮して、

「おまかせで、にぎって貰いましょう」

「オマカセでお願いします」とオヤジに頼むとジョージが、

「ニシ領事も警察の方ですね?」

「そうです。どうして分かりました?」

「雰囲気からです」

「警視庁から三年前外務省に派遣されました。今年、任期が切れて帰国しなければなりません」

「『帰国しなくてはならない』とはブラジルがお好きですね」

「家内がすごく気に入っています。私が領事館の武官になってから、初めて家庭らしい暮らしが出来たと言って・・・、それに、ブラジルで長男が生まれました」

「お子さんは私と同じ二世ですね」

「西領事の息子さんはちゃんとした日本人だ」

「それでも、病院発行の出生証を登録所に出せばブラジル国籍ももらえますよ。三十日の期限切れで締め切りなんてありませんから」

料理が運ばれてきた。

「森口の件ですけど、上村さんもなにか情報を持っておられますね」

「森口は日本で殺人を犯して逃げて来たんですね」

「森口が殺人を!? 遠藤君そうだったのか?」

「いえ、初耳です」

「あれ?領事館の情報は殺人じゃないんですか?」

遠藤副領事が、なに突拍子もない事を、とジョージを見下げる様な顔で、

「奴は、所属していた教団から大金を持ち出し、神奈川県警から指名手配されたのだ」

「なぜ、それを領事館で?」

「国際警察を通す類の犯罪ではないので、特別任務で俺が神奈川県警から領事館に派遣されて森口を追っているのだ」

「特別にモリグチを?」

「二十五億円となると、大金だからな」

「で、上村さんはなぜ森口が殺人を犯したと言われるのですか?」

「それがそのー、天からのお告げみたいなもので・・・」

「?!」

「それで、領事館で殺人事件を確認したくて、問合せした訳です」

真面目な顔で話すジョージを見ながら、軽蔑する口調で遠藤副領事が、

「ブラジル人は、天からのお告げを聞いて捜査を始めるのか・・・。西領事、領事館に戻りましょう。こんな二世の話、時間の無駄です」

立ち上がろうとする遠藤副領事を手で抑え元の席に座らせた西領事が、

「上村さん、森口の居所をご存じですね」

「ええ。しかし、殺人事件の証拠を掴んで、彼を処罰出来る状態にする迄はお知らせ出来ません。約束がありますから」

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