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ぷらっさ=最上川 

サンパウロ  鎌谷昭

 ずっとずっと昔に雑誌で読んでいた。
 こんなアナウンサーがいるのかな、この人たちの仕事はニュースを正しく伝えることだから、これでは困るよねと思ったのは、ある若いアナウンサー「くら王」が「くら王」がと話している。
最初はなんのことだかよくわからなかったが山が写っていたから「なぁーんだ、ざおうー(蔵王)」のことかとわかったという。「くらおう」と読めなくもないがそれでは他の人にはわからない。
 そんな記憶が残っていて先日のこと、元巨人軍の監督川上哲治氏が亡くなったとのニュースを見ていて「おやっ」と思った。
私たちの子供のころ巨人軍は絶対だった。テレビのない時代、ラジオを通じて、あるいは子供同志の間では赤バットの川上「てつじ」で、「てつはる」とはいわなかったがな…と念のため確かめてみる。なるほど「てつはる」だ。
私の記憶違いでこの半世紀以上の長い期間、「てつじ」と覚えていた。その方に驚いて急いで記憶の方を今修正している。いざという時さっと「てつはる」とでるようにしたいものだ。
 こんなちょっと変わったケースもある。
 四十を越した女性アナウンサー。夏バテ回復のていばん(定番)は、なんといってもうなぎ丼と紹介している。聞きとがめたのはこの「ていばん」。いま駆け出しの若いアナでもないのにそんな言い方はないでしょうと辞書にあたってみる。 「ていばん」なる言葉は見当たらない。これに自信を得て、そうでしょう、そうでしょうと。第一囲碁ではじょうせき(定石)物指しはじょうぎ(定規)、うな丼はじょうばん(定番)ですよと意気込んで、念のため最近の辞書も調べてみた。てい番、じょう番両方がでている。
最初の辞書は渡伯前五十年もの昔に買ったもの。言葉も時間が経つと進化するらしい。それ以来この言葉に注意を集中していると六十代のアナも「てい番」、若い人たちは「てい番」はもう当たり前、私自身も「てい番、てい番」と繰り返している内になんだかてい番もしっくりと耳にも口にもなじみだした。仕方ないか。
 でもこれは違うぞと思ったのは新人アナウンサーが登場してきた時。変わるのだなと思っていた矢先、東北地図を背景に「さいじょう川が…」と説明した。「西条川って?」知らないなと思った一瞬後「最上川」のことだと気がついた。
 ニュース後読み違いの訂正はなかったが、誤りは重大だったのかその後彼の出番は回ってこない。

(2014.3.1掲載)

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