樹海

 ジュリオ・セザルがペナルティキック(PK)を2本も立て続けに止める神業で、陥落寸前のブラジル代表(セレソン)を辛うじて次戦に進めた第4戦を、聖市セントロのバールで庶民に混じって見た。ファンフェスチ会場すぐ横にあり、そこに入れなかった数千人がバール前の普通のテレビにかじりついて熱い歓声を送っていた▼会場のすぐ脇には、家なし労働者運動(MTST)系団体が占拠した建物がいくつもあり、警察車両が通るのを邪魔し罵声を浴びせていた。バール前で観ている時、トイレを使いに来たらしい軍警10人ほどが店に入った。それに中指を立てる青年集団がいるのを見て、あの占拠者が試合を観にきているのだと分かった。彼らもセレソンに優勝してほしい訳だ。反W杯ではなく「競技場より大衆住宅を」との気持ちの様だ▼チリの選手が最後のPKを外した瞬間、群集は一匹の生き物のようにいっせいに両手を天に突き上げ、大歓声が沸き上がった。ビールの雨が降って、優勝したかのようにハチャメチャに喜ぶ光景が繰り広げられた▼先の占拠活動家らも一緒に大喜びしている姿を見て、W杯は〃社会的な鎮痛剤〃だと痛感した。セレソンが活躍している間は強力な薬が利いて、社会運動は抑えられる。この鎮痛剤が切れた瞬間、麻痺させられていた〃社会的な痛み〃がどっと押し寄せるだろう▼特にセレソンが優勝できなかった場合、祭りの後の虚脱感と共に「W杯をやっても何も良くならなかった」という無力感が一気に押し寄せるのでは…。7月から選挙活動が始まるだけに、再び抗議運動に国民の関心が戻り、政局流動化の要因になりそうな予感がした。(深)

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