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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=13

 寝台も4本の土台を打ち込み、ヤシの4つ割の上に蒲の干したものを敷いて寝るようになったのだが、王様にでもなった気分。宮殿は出来た。あとは便所と風呂と井戸が残ったが、水は当分、小川から汲んで来て使う。風呂はドラム缶と決めてある。今まではお湯を沸かし行水していたが、7月、8月は寒い目にあった。今度はドラム缶を使うので極楽だ。やっと便所や風呂が使えるようになり、人並の生活が出来るようになりそうだ。
 当分は井戸までは掘れぬので、大きい樽を買って底に木炭を厚めに敷き、汲んできた水を濾過して使う。そうすれば水も衛生的に使えるようになるだろう。そのうち、仕事の都合が付いたら家の近くに井戸を掘るようにするが、当分は仕事が第一だ。とは云っても畑になる様な場所は所々で、大半は火が入って居ずに切り落とされた大木にからまった蔓は、煤にまかれ、茶色っぽく枯れかかっている。
 これで来年の棉の植え付けが出来るのだろうか。耕主からはただ、「今年は何とか食い繋いでいってくれ」と言われたらしい。子供ながらも心細い。おやじや兄貴はどういう心境だろうか。仕方が無い、やれる所までやり通す積りであろう。ぼんやりはしていられない。
 あちこち作物の植えられそうな所にトウモロコシやフェイジョンを植えたが、半分は鹿や兎に食べ荒された。これでは作物は育たないと今度はジャガイモを植えた。すると大当たり。良く出来たジャガイモは僅かながらも近所で売られ、初めて現金が入った。次は野生動物に食い荒らされぬ様な作物をと思って、日本から持ってきた蕎麦を植えたりしたが、やはりトウモロコシとかフェイジョンなど、金になるものでなければならなかった。
 野生動物を驚かす為に犬を4、5匹飼った。それで多少良くなり、植えたフェイジョンが大当たりで、小さい畑ながら沢山収穫でき、思わぬ小金が入った。それで次々と畑を広げていき、6アルケールまで拡大した。
 並大抵の事ではなかったが、我武者羅に働いて自分でも想像できなかった力を発揮し、やり遂げる事ができた。今年は仕方なく小物ばかり植えて運良く食い繋ぐ事もできたが、来作はぜひ棉で稼ぎたい。今は心の準備も万端だ。畑もすっかり整い9月の雨を待つばかりだ。でも、一抹の不安はある。棉作については何1つ知らない。しかし、それも強みになるのかもしれない。人間自体がそうである様に、物事を知らないという強みはその事において白紙である事だ。それは恥でもなんでもない。物事に恐れる事こそ恥じである。
 知らないという強みあってこそ、恐がらずに前進できるという、筑後人の根性を丸出しにして前へ前へと進むのだ。
 今まで知らなかったのだが、山の野生動物達に鶏を随分と食べられてきていた。犬を飼うようになって被害は少なくなったのだが、卵などはまだトカゲに食い荒らされているらしい。畑には鹿や兎、鶏には外の野生動物、卵にはトカゲ、叉、外にもジャララカという毒蛇が時々顔を見せたりする。その中の何匹かは叩き殺したが、何匹か倒れていた大木の間にもぐり込んで逃してしまった。
 後味が悪く、隠れていて、ひょいとかみ付いて来るのではと、びくびくしていた。無闇に飛びついてくるのではないと知って、いくらか安心したが毒蛇はかまれたら命取りだ。用心にこした事は無い。

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