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連載小説=子供移民の半生記=家族みんなで分かちあった=異郷の地での苦しみと喜び=中野文雄=34

 すると、上の方はなぜか青々としている。目の錯覚かと思い、下の方を見ると、やはり真っ黒で目も当てられないほどだ。その中で10本位は青々としている。
 よくよく見まわすと、本当に被害に遭ったのは盆地になっている風通しの悪い場所に植えられている4~5百本位で、あとは無傷で青々としていた。蕾はやられているだろうから実のつきが悪くなり、今度の収穫にはひびくだろうけど、樹には被害がなかったので来期にはちゃんと実をつけてくれるだろうと、気を落とさずに先を待ち、気長に生きるより外ないと観念すべきだと悟った。
 皆が心配そうにぞろぞろと登ってくる。おやじが「どんな具合だ。」と聞くので「被害は4~5百本で心配はない。蕾は傷んでいるようには見えない」と答えた。「じゃ、カフェ(朝食)の用意ができているから」と言って、皆一緒に家に戻りかけたがおやじはまだ自分の目で確かめたそうに上の方を眺めているので兄貴が付き添って二人で確かめに行った。
 家に着くとコロノ達も何人か集まっており、心配そうに様子を聞きに来ていた。事情を説明すると、全員「ほっ」としたようだった。我が家ではこういう経験は初めてだったが、彼らにとっては霜災害の規模次第で解雇になりかねないので、自然の働きも常に心配の種らしい。立場は違っても心配はつきものだ。ほどなくおやじと兄貴が戻ってきたが、やはりあれ以上の害はなく、みな安心した。後は2~3日待てば被害の本当の範囲が分かるはずだったが、その2~3日の長かったこと! 外見では蕾に異常は見えなかったが、実際にどの位まで影響されていたのか、まだ心配だったのは事実だ。
 ちょうど2日目の夜のことだった。プーンと甘い香りがそよ風に乗ってきた。すぐに立ち上がり花の咲き具合を見に行こうと準備を始めたら、皆も見に行きたがって用意を始めた。懐中電灯とランピオン(灯油のランプ)を持って、家族そろっての夜のコーヒーの花見としゃれ込んだ。ただの風流心ではなく、死活問題と言うほどの切迫感は無いにしろ、今後の経済問題に関わるのであった。 
 コーヒー園に近づくにつれ、甘い香りはますます強くなり、花も見えてきた。懐中電灯やランピオンの仄かなともし火の光を浴びた真っ白な満開の花を見たら、皆安堵の胸をなでおろした。霜の日の早朝の予想は的中し、蕾に被害はなかったのだ。来たついでに、もう少し花の付き具合を見廻そうと兄に言ったら、好明も行きたいというので3人で見廻り、外の皆は家に戻った。
 予想通り花の付きは上々だった。案の定、霜にやられた所の近辺は花の付きは落ちるが仕方がない。95%は豊作に間違いない。万々歳だと喜び勇んで帰る。安堵で今夜は眠れないかも知れない程楽しい。初年度で霜災害とは辛いと思っていたが、心配したほどではなく、先の見通しは明るい。
 何はともあれ使用人達を安心させなければならない。彼ら無しでは仕事もできない。幸いにも彼らは全員居残ってくれたし、仕事は充分ある。というのはコーヒー園の樹の間に伸びている雑草や外の植物を全員で取り除かねばならない。いうならばコーヒー園の大掃除というところか。家の兄妹は肥料入れに全力を尽くすつもりだ。計画は軌道に沿って動き出した。
 早いものでアグア・デ・カヴァーロに移ってから2年になろうとしている。初めに施肥した所はもうはっきりと効果を見せ始めている。しかし、あまり捗っているとは言えない。

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