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寄稿=大統領選挙=トップに躍り出た庶民候補=マリナ・シルバとはどんな人?=(下)=駒形 秀雄

 2003年にはルーラ政権の環境大臣になり、08年までその職にありました。社会のためにという志を貫くために小政党所属ながら前回大統領選挙に立候補し、1950万票(全体の19・3%)の得票を得て、その実力を証明しております。
 今回、突然の大統領候補決定で高い支持率を得ているのは、一部の人には予想外との印象を与えていますが、これらの経過を見ますと、「成るほど、成るほど」と納得出来るところです。
 マリナは他の候補のようにバックの大政党や豊富な資金がある訳ではない、支持政党の力もマスコミ登場時間も十分ではない。しかし、その様なハンデーをはねのけて、一般選挙民の共感と支持だけでこれだけの人気を集めているのは、「全く大したものだ」と感心しない訳にはいきませんね。

持続可能な発展を目ざす

カンポス(右)の飛行機事故死を受けて、劇的に出馬したマリナ(Jose Cruz/ABr - Agencia Brasil)

カンポス(右)の飛行機事故死を受けて、劇的に出馬したマリナ(Jose Cruz/ABr – Agencia Brasil)

 マリナは、自然環境保全により人々の生活を豊にしようと環境大臣になったこともあり、この面での業績が目立っています。従来規制が無いため無制限に伐採されていたアマゾンの森林を護り育てる森林保護法規を作ったり、有害ガス排出規制を決めたりした他、農作物の遺伝子組み換え規制、アングラ原子力発電所の安全面チェックなど多方面での活動をしています。
 アマゾン地区の水力発電ダムの建設計画では、彼女は、これのもたらす環境破壊の検討などで慎重な調査を主張しました。
 他方、アマゾンの樹を切って材木で輸出すればお金が入る、その跡地で牛でも飼えば直ぐ現金収入が増える地主階級、また、巨額の政府資金が投入される発電ダム建設工事で懐が潤う土木業者とか関係者達は早期着工を求めました。
 今まで自然と調和しながら平和に生きて来た地元生活者は生活基盤を崩す開発には反対でも、それを通す金も力もありません。こんなことで多勢に無勢のマリナは環境大臣を辞めざるを得なくなったのです。この頃、同じ閣内に居りながら開発推進のジウマと慎重派のマリナが対立したことは新聞などで報じられた通りです。

マリナは単なる開発反対論者なのか

 ここで理解頂きたいのは、マリナは「単に開発に反対しているのでは無い」ということです。主張していることは「経済開発は必要だが、持続性、継続出来る秩序のある発展を目指そう」ということなのです。
 分かりやすい例を挙げましょう。「アマゾン河に住む魚は、漁撈器具の発達や、ドンドン増える漁労者の乱獲により、急激に減少しています。このまま放っておけば魚が居なくなり、漁師も仕事がなくなります」という問題に関し、マリナは「魚を獲ることに一定の規制を設けて、魚の繁殖を維持し、孫、子の代までも魚を釣れるような河にしよう」と言う考えなのです。
 「アマゾンの森林伐採も同じことです。今、樹を切り、牛を飼えば一時的に収入は増えます。しかし、むき出しになった表土が流出し、土地がやせたら作物も取れなくなります。
 それよりも森林を無くしたことで異常気候となり、大雨や旱魃の災害をひき起こすことになります。開発がダメと言うのではないが自然林の一部を残すとか、川のほとりの樹は切らないとか規制して、自然と開発を調和させる方策を探そう。これが『持続性ある開発』の意味なのです。
 昔、日本人が移民で原始林を切ったころは、その土地が痩せたら別の土地に移っていましたが、当時はこの様ことを考えなくて済んだのでしょうね。

国外で高い評価受ける

 マリナのこの様な働きは国内だけではなく、国外でも大きく評価されています。特に文化の進んだヨーロッパの諸機関、王室などから賞賛を受け、表彰も受けています。米国のNEW YORK TIMESからは『南米の環境保護の旗手だ』と呼ばれています。また、去るロンドンのオリンピックではバン国連事務総長らと共に国連の旗を持って入場行進に参加する栄を与えられてもいます。
 以上、今回はブラジル大統領の有力候補に躍り出たマリナ・シルバの紹介に止め、激しさを増す選挙戦の今後の動き、誰が当選しそうか?などは又別の機会に―と言うことに致しましょう。(終わり)

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