2013年に本紙で小説『移り住みし者たち』を連載した麻野涼さんが昨年末、社会派ミステリー小説『死刑台の微笑』(文芸社文庫)を刊行した。
三人の少年によってひとり娘を惨殺された母親が、その無念を晴らすために会社を辞めて裁判の傍聴を続ける中、あまりに凄惨な凶行に驚愕する。にも関わらず、地裁判決では計4人も殺した加害者3人のうち、死刑は1人、残り2人は無期懲役だった。
少年法を楯にする弁護士や支援者によって加害者の方が守られる現実の矛盾にぶち当たる中で、犯人への死刑判決を望んで必死に立ち上がる被害者の母親の姿を描いたのがこの作品だ。
本紙の前身パウリスタ新聞記者だった麻野さんだけに、必ずと言っていいほど作品のどこか重要な登場人物や舞台に、ブラジル関係が散りばめられるのも見どころの一つだ。
本書にもフェルナンドという、幼い頃に両親に連れられて愛知県で育った在日ブラジル人混血子弟が登場し、重要な役割を演じる。新宿のホストクラブの売れっ子外国人ホストで、常に財布には百万円札の束が入っており、水商売の裏表を嫌というほど知っているはずのキャバクラ嬢〃キララ〃を誘惑し、300万円もの負債を知れない間に背負わせる。
このキララは、実は加害者3人のうちの一人の姉だった。フェルナンドにそれを依頼した人物がおり、そのもくろみ通り、キララは返済ために風俗店に鞍替えし、その事実が写真と共に拘置所の弟に知らされた…。
裁判と同時進行で復讐劇が進み、いよいよ次の高裁判決が下る。〃死刑台の微笑〃が意味するものは何なのか。関心のある人は日系書店で注文を。