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寄稿=パラグァイ=ドイツ新移民の農業貢献=輸出目指すクレッス夫妻=坂本邦雄

大豆の収穫風景(パラナ州、Foto: Antonio Costa/Agencia Parana)

大豆の収穫風景(パラナ州、Foto: Antonio Costa/Agencia Parana)

 ドイツ連邦共和国が東と西に恥辱の「ベルリンの壁」で二分されていた頃の冷たい「冬時代」だった祖国を後にして、勇躍パラグァイに希望の夢を託し、移住して来た一組のドイツ人の若夫婦があった。
 そのカップルは、農学者のHeinfried・Kress(クレッス氏)と、自然をこよなく愛す生物学者Beate・Holtker(ベアテ夫人)で、時は1977年の事であった。
 クレッス夫妻は、イタプア県北部のカルロス・アントニオ・ロペス郡で約1500ヘクタールの同地方特有の豊饒な土地を購入し、近隣のパラグァイ人に呼び掛け入植を勧め、開拓を始めた。
 これが段々面積も広くなり、今では「コロニア・クレッスブルゴ」の名で知られるカルロス・アントニオ・ロペス集団地に発展した。立地的には日系のピラポ移住地の以北東パラナ河上に位置し、アルトパラナ県に隣接する地域である。
 農学者のクレッス氏は親身に入植者の農事指導に当り、必要な作物種子や農薬を配布し、収穫物の集荷を行い、愛情を以ってパラグァイ人農家を啓蒙し、農家の生産性向上に挑戦した。
 多角農業開発の合理化を目指したクレッス夫妻は情熱的に、柑橘類、ブドウ、桃、リンゴ、バンジロウ(グヤバ)等の果樹栽培を組織的に奨励した。
 そして、食文化の低さで柑橘ジュースすら一般に余り消費されないこのパラグァイで、国際市場への輸出を目的に画期的な果実類の冷凍ジュース産業を興した。
 事業は着実に伸びてKimex社(有)、ベアテ農牧場、Frutika社(有)等を擁するクレッスグループに発展した(*有限責任会社)。
 この中でベアテ農場は1万1700へクタールの大豆を5千ヘクタールのマイズと交互に栽培し、地力の劣化を防ぐ為の輪作体系、エロージョン対策、直播不耕起栽培の耕作方式を採用している。
 果実生産部門では、1800ヘクタールの点滴灌漑に依るナランハ、マンダリーナとレモンの柑橘栽培を行っている。加えて20ヘクタールのグヤバ及び30ヘクタールの桃がある。なお、同部門では年間それぞれ8万本の病害菌の予防処理された柑橘類苗木や各種野菜の苗を生産している。
 蔬菜園芸分野では100ヘクタールの面積で、ニンジン、トマト、ジャガ芋、玉ネギ、ピーマン等の温室栽培を高度の中央散水灌漑技術等を以って成果を上げている。
 牧畜面積には400ヘクタールが当てられ、ユーカリ及び松の間作植林と46ヘクタールのマテ茶栽培で補充されている。
 グループのKimex社は穀物と種子の生産業を主とし、そのサイロ群施設は4万トンの穀物収容能力を持つ。同社は国内外の良質な大豆と小麦種子の需要に応じている。
 なお、当初(1977)より産業部門はFrutika社に属し、ナランハ(蜜柑)、ポメロ(グレープフルーツ)、レモン、バンジロウ(グヤバ)、トケイソウ(ブルクジャ)、リンゴ、桃等の濃縮及び冷凍果汁、ナランハとニンジンのミックスジュースや大豆汁添加で強壮されたこれ等の各種ジュースやその他ノーマル又はライト各ラインのジュースを生産している。
 料理に欠かせない調味料の〃味の素〃たる普通及び辛口ケチャップの原料になるトマトのエキス、ソース、パルプ(果肉)やピーマンのソースと香辛料チミチュリの生産も引けを取らない。
 去る3月26日にはFrutika社は国産ナランハのネクター(甘露)576ケース及びグヤバのネクター864ケースを台湾向けに初めて出荷した。これ等パラグァイ高級製品の国際市場への輸出増進が期待される。
 このグループの非凡な創始者クレッス氏は惜しくも1998年に事故で夭折した。しかし、パラグァイ政府はその前に(1995年5月15日)同氏の業績を讃え、「コメンダドール騎士勲章」を授与した。
 なお、先回本面の「目覚めるもう一つの国」で触れた「ADEC・キリスト教ビジネス協会」は1996年に模範企業家としてクレッス氏を表彰したのに続き、2003年にはベアテ未亡人を同じく表彰した。
 ベアテ未亡人は8年前にグループの最高顧問役に退き、7年前からパラグァイ生まれの一粒種の才女クリスティーナ嬢に経営の全権を与え助言している。
 クレッスグループの所有地はフェルナンド・ルーゴ大統領の政権時代(08?12年)に、ポピュリスト(大衆迎合)の国会議員連の煽動で、すんでの事に自称「土地なしキャンプ族」の怠け者農民等によって侵害されるところであった。
 一政権の善政が果たすべきは、働く意欲が旺盛な善民に正当な多くの土地所有権を保証し、折角の土地耕作の一片の意欲もない怠惰な者達に、理不尽な土地の不法占拠などを決して許してはならない事である。

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