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パラグアイ=入植地調査よもやま話=坂本邦雄=(5)

 この辺一帯は鬱蒼としたジャングルで林相も良く、土地は一般にテラローシャ沃土で、河川は両岸が急勾配で高いのが特徴だったりして瀬川技師は感心していた。
 ところがこの先の話が大変なオデッセイ(冒険談)になるのだが、いかに道なき道を走るためのジープだとはいえ、材木業者が作業に利用しているとは聞かされていた山道で、猛獣達も通るとかの原始林の真っ只中での細道はジープでさえも易々と行けるものではなかった。
 そこで、地元の人の紹介で―昔は山で自生ジェルバマテ茶の収穫に奴隷の様に酷使された〃メンスー労働者〃の悲哀な歴史がある―名前は忘れたが、屈強で大男の非常に従順で忠実なペオン(人夫)を一人道案内に雇って行く事にした。
 そして、潅木や倒れた木が無数に有ったりしてジープが通れない時は、その男に持参したアッチャやマチェッテで、〃道を広げて貰いながら〃遅々として進んだ訳だが、それが行く先々のいたる所での繰り返しで、彼には気の毒な程だった。
 しかし、その馬力は驚異的で連続の重労働に嫌な顔も見せず、頑張って下れたのは素朴な働き者のパラグァイ人の良い点で一同感心させられた。
 彼はスペイン語は余り出来ずガラニー語しか話さないので、ちょっと私は通訳に困ったが、何とか意志は通じるので話している中に、我々が今通って来ている道はシバシバ政治犯や罪人がアルゼンチンやブラジルへの亡命又は逃亡に利用する密道で、自分は良くその案内をするのだと聞いて、「ヤレヤレ、では我々は頻繁に出て来る危ないケモノ達の他に犯罪人等とも同類になったのか」と一種のスリルを感じた。
 ところで、この愛すべきペオンを雇う以前の話なのだが、最初は山道を案内人なしに辿っていたのは良いが、途中で道が分からなくなり、あるプエルト(港)で、住民に尋ねたらこれから先はどこそこのプエルトまではジープでは通れないので、明日は定期便の貨客船が下って来るので、その船で行かれたらよかろうとの助言である。
 よって一晩そこで泊まり、翌日は予定の小さな船が来たので、その甲板にジープを載せてパラナ河下航と相成った。
 しかし、プエルトとは名ばかりで、港湾施設なるものは皆無で、ジープを船に載せるにも岸から甲板に渡した二枚の板を踏み外さないように自分で運転して乗っけるのである。
 次の目的地のプエルトでも然り、同じようにして下船するのであった。(註=ここでお断りしておきたいのは、港やその他の地名は筆者の記録になく記憶も覚束ないので、間違ってはいけないので一切明記しない事にした)。
 だが、この地点で無事上陸したのは良かったが、私はこれまでの疲労や緊張が祟ったのか急に発熱し、参ってしまったのである。それで瀬川技師は心配し、一時休養する事に決め、プエルトに近い民家で一晩世話になった。
 して、瀬川技師は私にアスピリンや正露丸を盛んに飲ませ、一夜明けて見るとまだ若かったのが善かったのか、幸い私の病は嘘のようにケロリと治っていた。
 それから前述のペオンの案内で冒険的な土地踏査を南下しながら続けた次第で、鬱蒼とした〃緑の魔境〃と誰かが呼んだ原始林の中を終日ジープを進めた。
 日が暮れても我が真面目なペオンは疲れた様子もなく、ヘッドライトの明かりを頼りにマチェッテで道を切り広げながら、「もう少しでカンポ(野原)に出れて、牧場の施設もあるので、そこまで行きましょう」と我々に気を遣って言う。
 そして、暗い中を更に大分進んだが一向にそれらしき様子も現われないので、パラグァイでは人に行く先の距離を聞くと良く、「あと1キロ位でもう直ぐです」などと平気で答えるが、行って見るとまだ何キロも遠かったりするので、さてはその口の返事に引っ掛かったかと思い、既に真夜中で正に夜露もヒドイ密林だったが、瀬川技師に「今夜はこれ以上無理するのは危険で、ペオンも可哀相ですから、ここ等で野宿しましょう」と、進言し野営する事になった。

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