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ニッケイ俳壇(875)=富重久子 選

   サンパウロ         串間いつえ

読み尽す新聞二紙や寝正月

【「寝正月」とは、忙しい年末の仕事も終 
えて新年になり無精寝をすることであるが、ブラジル語ではそんな言葉も聞かないし、こちらは日本のような新年の手の込んだ正月料理をつくったり、新年の来客を迎えたりという事もあまり無く、堅苦しく無いので楽である。
 この一句、普段は家の仕事から蜂鳥誌の編集などなどと、休み無く働いている作者にも「読み尽す新聞」と、こんな安らかなお正月休みだったのだなと思った事である】

バスの席あまねく西日射しにけり

【二句目、「あまねく西日」と言うまことに良い言葉の選択でこの一句を揺ぎ無い佳句としている。揃って巻頭俳句として推奨し、よき新年俳句を味わって頂きたいと思う】

塾開く下宿の先生半ズボン
人込みに吾(あ)もお上りさん大晦日
大ぶりなカラー際立つ宴かな

 
   サンパウロ         平間 浩二

句帳手に推敲重ね去年今年

【推敲(すいこう)は道理や事情などを推し図って考えることとあるが、俳句の上では五、七、五と自分の詠んだ俳句の言葉や想いが正しく使われているか、亦その言葉が最も適切であったか等々何回も読み直して、自分の納得いくまで書き直したり、上下入れ替えてみたりして考え練る事である。
 いつも熱心に作句している姿の良く現れた一句。「去年今年」にしみじみと思いが伝わってきて心に残る佳句である】

紫陽花や日々変りゆく毬の色
書き終へし机上の原稿去年今年
炎昼や勇気の一歩踏み出しぬ

   ポンペイア         須賀吐句志

初釜の茶筅に残る薄みどり

【「初釜」は新年はじめての茶の湯で初めて懸ける釜のことであるが、「初釜」といえば初茶湯を指すのである。
 作者も初釜に招待されての一句であろう。
 茶筅でさらさらと茶を立てて、静かに茶筅を引き抜いて水差しの前に据えた時、うっすらとお茶の薄緑が残っていたのであろう。実に細かな観察で驚いている俳句である。作者の緊張した正座の姿の見える佳句であった】

身の程に生きて悔なし年あらた
日本語は故郷の方言初笑ひ
三代の絆揃へる初写真

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

木いちごの花落ち小さな小さな実

【春木苺の白い花が咲き、夏に透き通ったような金色の実をぶら下げる。子供の頃野山で見つけて甘い木苺を食べた事が懐かしい。
 この句のように、「小さな小さな実」である。作者はカンポスに住んでいて、近くの野山でこの小さな木苺を見つけ、嬉しく食べて見たのであろう。素直ないい俳句であった】

房生りの青き木苺杣の道
突く羽根を上手に受けて女の子
羽子板を抱きて幼女は一人ぼっち

   ペレイラ、バレット     保田 渡南

蜂鳥の舞ひとどまりて輝ける

【ベランダに甘水を下げて、長い間蜂鳥の来るのを楽しんでいたが、夜蝙蝠が来て荒らすようになってやめている。
 「舞ひとどまりて」とあるように、蜂鳥は蜜瓶にきても羽ばたきながら、ほんの一寸の間蜜瓶を見つめている。その羽ばたく羽根の美しさ、この句にあるように「輝ける」ひと時である。的確な蜂鳥の写生俳句であった】

放水を浴びて蜂鳥よろこべり
流燈やそれぞれに霊のせ行ける
手を振りて遠き笑顔や初夏の風

   サンパウロ         林 とみ代

紫陽花のこぼす七色雫かな

【「紫陽花」は今盛んに咲いていて、鉢植えが良く売れている。はじめは白がかっているが次第に薄青、薄紅を帯びるように変わっていくので“七変化”とも呼ばれる。暑さに弱く雨に濡れている様は美しい。
 真にこの句のように、「七色雫」そのものであってよく庭や屋敷の砂利道の両側に植わっていたりして、暫くその美しさに見とれる。
 上品な写生俳句であった】

紫陽花を植ゑて生家に別れけり
紀の国の古里偲び手毬つく
御降りや古都の芸妓の蛇の目傘

   サンパウロ         鈴木 文子

初場所や初優勝へまっしぐら

【最近あまり相撲は見ないが、其れも多分あまり日本力士が居なくなったからであろう。昔子供の頃は、試験のある頃でも欠かさずみたもので、双葉山とか玉錦、好きな力士が沢山居て楽しかった。
 今年の初場所は久しぶりに日本人力士が優勝して日本国中が騒いだ。作者も中々の相撲ファンで、「まっしぐら」とは、良い表現の相撲俳句であった】

初厨子等の好物焼餃子
新年や激動の世の未来問ふ
初便り書けば故郷近づきぬ

   サンパウロ         篠崎 路子

若きらの巡回医師の半ズボン

【大学を出るとインターンとなるが、その合間には援護協会の医療班として、奥地の診療にうちの子供達も同伴して、色々と良い経験を積ましてもらったのである。
 若い者は暑いとすぐ軽装になり、白衣の下は半ズボンと言うことであろう。作者はその様な医療班を見ての一句である】

弾き初めの孫の廻りに犬猫も
客迎ふ打ち水すませレストラン
西日照り車道落書き鮮やかに

   サンパウロ         玉田千代美

旅疲れありて籠もれば年明くる

【新しい年も始まったかと思う間に、もう二月、本当に月日のたつ早さに驚く。
 年末に旅から戻り疲れて休んでいたのであろう。そうこうしている間に正月が来て過ぎてしまった。若い頃の様な正月の感激はもうあまり感じなくなったのは、少し寂しいがブラジルと言う国に住んでいるからであろう。しみじみとした佳句であった】

初句会欠席なれど祝ひけり
新年も門松なしで故郷を恋ふ
凄まじき音に始まる年新た

   スザノ           畠山てるえ

済みし事メモを線引く古暦
青紫蘇の生え揃ひたる二年ぶり
虻よけに木の葉いぶして海の家
桑の実や急場しのぎの枝の箸

   ピエダーデ         国井きぬえ

正月やお年玉受け皆笑顔
森騒ぎピリキット群れ飛び去りぬ
初夏の匂ひ漂ふ並木道
雨上がり空に輝く除夜花火

   サンパウロ         菊池 信子

炎昼に耐へて野花の咲き競ふ
炎昼や影ある街路選び歩す
雨上りいとしっとりと濃紫陽花
緑と黄コントラストの大毛虫

   サンパウロ         原 はる江

人を呼ぶ紫陽花満開グラマード
クァレズマ咲く道新車で初乗す
お降りや水制限はいつ解かる
はらからと楽しく語りお正月

   サンパウロ         建本 芳枝

片蔭に隠れて淡き草の花
伯人に似合ふ真っ赤な夏帽子
日光浴兼ねて早朝草取りす
大声でストレス解消滝の前

   サンパウロ         上田ゆづり

難民や西も左も蟻地獄
飛び交ふて闇に消えたる蛍かな
玄関にすらりと白き花海芋
遠方に牛の群れたる夏木立

   サンパウロ         伊藤 智恵

西日入る茜に染まる雲を背に
夕立来る庇ある場所満員に
初仕事食事作りで始まりぬ
半ズボン郵便配達軽やかに

   サンパウロ         山岡 秋雄

じじばばの孫のお守りも初仕事
風鈴に選句のしじま破らるる
申年や咲きてやさしき百日紅
西日照りわが厨には蚊も来ずに

   サンパウロ         鬼木 順子

五分ほど眠り付くまで団扇風
一月は静まりかえる学舎かな
大根のひどく辛かり夕餉かな
華やかに音響かせて除夜花火

【このたびの句は内容も言葉遣いよくなっていました。少し添削をさせたもらいましたので、参考になさって下さい】

   サンパウロ         上村 光代

年の暮れあちこち餅を搗く音す
桑の実を食べて舌見せ大笑ひ
夕立や道を川にし立ち止まる
初仕事今年こそはと張り切って

   タウバテ          谷口 菊代

風吹きて夏の大雨すぐに止む
桑の実のジュースを作りよく売れて
半ズボン男は出かけそのままで
新年や長生きの母大切に

○ブラジル歳時記では、二月から秋の季語となっています。朝夕吹く風がなんとなく秋の感じがしませんか?少し初秋の季語を書いておきます。爽やかな秋の俳句をお送り下さい。    久子

○初秋・窓の秋・小鳥来る・鰯・野牡丹・パイネーラ・秋扇・新酒 など

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