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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(32)

 思い切って早起きして、『強制送還』というキーワードでネットサーフィンすると、入国管理局のホームページにたどり着いた。
『法務省入国管理局では、“ルールを守って国際化”を合い言葉に出入国管理行政を通じて日本と世界を結び、人々の国際的な交流の円滑化を図るとともに、我が国にとって好ましくない外国人を強制的に国外に退去させることにより、健全な日本社会の発展に寄与しています』
 役人らしい、長ったらしい文章だ。要するに、不良外人は日本の敵ってことか。それで?
『不法残留(オーバースティ)等をしている外国人は、入国管理局に身柄を収容の上、手続きがとられ、日本から強制送還されることになっています。また、強制送還後、5年間(事情によって10年間となる場合もあります。)は日本に入国することはできません』
 5年または10年間は日本に入国することはできない!すると、強制送還された外人が、すぐに再入国したければ、不法入国するしかないわけだ。
 ソファに座り、いつものケニーGをBGMにして、「木村屋コーヒー」を飲みながら思索にふけっているうちに、リカルド田中の「妻」の死亡事件について、ある仮説を思いついた。
 気がつくと時間が経ち、昼近くになっていた。その日も秋晴れのいい天気なので、気分転換するため、朝刊をもって外に出た。青山通りから神宮外苑につながる銀杏並木通りを散歩して、お気に入りのイタリアンレストランに入った。
 10月半ばで、紅葉のシーズンにはちょっと早いが、日陰のオープンテラスに座ると、冷えて乾いた空気に秋の深まりを感じた。
 ウエイターにデザートとコーヒー付きのランチ・コースを注文したあと、ケータイを取り出し、ゆうべ新宿で別れたジュリアーナに電話したが、なかなかつながらなかった。
「ボン・ジーア(おはよう)!寝てるとこ、起こしちゃったみたいだね?」
「あ~、ジュリオか。今どこにいんの」
「近所の定食屋で、昼メシを食べるとこだ」
「ジュリオんちのそばに、そんなとこ、あったっけ?で、何か用?」
「今日は何すんの?」
「何って、久しぶりの休みだからさー、部屋掃除して、山みたいにたまった洗濯して・・・」
「その前に、もう昼だから、君んちのそばの韓国レストランに行って、腹ごしらえしてくんないかなあ。夕べ、前を通った店だよ」
「また、何で?」
「レストランの隣のぼろアパートに住んでたっていう、ほらっ、南米帰りの実業家とかいう男。そいつについて、何か知らないか、レストランの人に聞いてみてよ。実名を出してもいいから・・・」
「あたしー、にんにくの匂いとか、キムチとか苦手なんだよね。それに、ああいう店って、女一人で入りにくいよ」
「だったら、日本のすき焼きに似た『ブルコギ』っていうのを、定食で頼むといいよ。臭くも辛くもないし、野菜がたっぷり入って健康的だし。それと、一人なら、カウンター席に座って、酒に一品料理でもいいね。『マッコリ』っていう、白く濁った韓国の酒がお勧めだよ」
「お酒は、もういいや。ゆうべのチョー高級カクテルのおかげで、頭ガンガンしてるよ。ご飯食べて、ジュリオに頼まれたこと聞いたら、すぐ帰ってくる」
「急に悪いね。今度、青山の素敵なレストランで、ランチをご馳走するから。紅葉の季節には最高のとこだよ・・・」

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