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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(22)

 リカルドは、東京では六本木とか青山とか気取った場所しか知らないので、もっと庶民的で昔の東京を想像できるような場所に行きたいと言うので、タクシーを拾って、『新宿ゴールデン街』に案内することにした。
 区役所通りから少し入り、老舗のストリップ劇場の前で車を降り、『街』の正門の向こう側に足を踏み入れたとたん、リカルドが驚いた。
「これはすごい! 何か別の世界への入り口にいるみたいですね。さっき乗ったタクシーはタイムマシーンですか」
 リカルドの希望で、最初に『街』を見て回ることにした。輝くネオンと長屋風に連なる飲食店を見て声を上げ、無邪気に喜んでいる彼の姿は、明るく陽気なラティーノ(ラテンの男)そのものだ。
 一通りの見学のあと、「おふくろの味」を売り物にしている小料理屋風の店に入り、狭いカウンター席に二人で肩を並べて座った。
 リカルドには、古き良き時代の定番だったというキリンのラガービールを勧め、私はいつもどおり、焼酎のホッピー割りを注文した。
 再開を祝して乾杯したあと、お通しの肉ジャガを口にしたリカルドがまた感激した。
「これ、美味しいです! ブラジルでママイ(ママ)が作ってくれたのと同じ味がします」
「きっと、リカルドのママは、日本から行ったおばあちゃんから教わったんだろう。私と違って、『おふくろの味』を知ってる君がうらやましいよ」
 リカルドの幸せそうな顔を見てこちらも嬉しくなり、私の分もよかったらと勧めると、彼は涙を浮かべてお礼を言い、ぺろりとたいらげた。純情で憎めない男だ。きっと、亡くなった母親を懐かしがっているんだろう。
 リカルドは好き嫌いがなく、何でも食べるというので、店の女将にお勧め料理を適当に出してくれるように頼んだ
「ところで、一人になってから、生活の方はどうだい」
「実は、アナが死んでから、毎日寂しい思いをしています。夜仕事から帰っても、アパートに明かりはついていないし、部屋の中は朝出た時のままで、何か、そこにあるはずのものがないという感じで・・・」
「その気持ち、なんとなく分かるな。部屋に飾った花でも、数日後に枯れてなくなったら、そこにポッカリ穴が開いたように感じるから、数ヶ月とはいえ、一緒に暮らした美しい奥さんがいなくなればなおさらだな」
「まさにそういう感じです」
「それから、仕事の方はどうなの」
「相変わらずです。確かに金は稼げますが、単純労働で技術は身に付かないし、職場の日本人とは個人的にあまり付き合いがありません。一緒に働いているフリーター君は、今の日本では、汚い職場で汗まみれになって働くのは、一番ダサい生き方だと言っています」
「最近は、『ヒルズ族』みたいな生き方にあこがれる奴が多いからな」
「『ヒルズ族』って何ですか」
「前に、奥さんのことで六本木に行った時、そこに建っている高いビルを見なかったかい?ああいうところで働いたり住んだりしている連中だよ。インターネットを使ってうまく金を儲けるから、IT時代の『勝ち組』とか言われてるよ」
「いつかフリーター君が、僕たちは『負け組』だとか言っていました」
「人生は、何が勝ちで何が負けかなんて分かんないよ。金や地位を手に入れれば、必ずハッピーになれるわけじゃないし・・・。ところで、そのフリーター君だけど、どうしてる?」

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