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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(19)

 ペドロの顔つきから、父親は日本人「らしい」が、名前は分からない。
 余談だが、昨日俺は、たまたまカロリーナが住むマンションの前を車で通り、プレイロットでペドロを遊ばせているカロリーナと女中を見かけた。
 カロリーナは、まだ母親役が身についていない様子で、子供は女中の方になついていた。
(5)結論
 調査結果から推定すると、リカルド田中は、カロリーナの双子の姉にあたるアナと偽装結婚した。つまり、妹は姉に、自分の住むマンションを「お見合い」の場所として提供した。カロリーナの使用人クララ・フォンターナは、誰かからいくらか渡され、アナの母親役を演じた。リカルド田中がマンションを訪ねた時、カロリーナは子供を連れてどこかに隠れていたのだろう。
 アナは、日本に行く前に、妹のカロリーナからペドロの出生証明書の写しをもらい、日本に着いてから彼の父親を捜すことを頼まれた。ところが、父親を見つける前に、悪い仲間に誘い出されて、運悪く事件に巻き込まれてしまった・・・というわけだ。俺の読みは当たっていると思うが、また必要なことがあれば何でも調べるから、いつでも連絡してくれ。それから、今回の調査でかかった費用は、会社の必要経費として落とすから心配なく。では、また・・・』

 やれやれ、自分の考えにえらく自信をもっているし、アミーゴのためなら公私混同までしてくれる。彼は、もともとラティーノみたいな日本人だったのかな? セルジオ金城の調査結果はそれなりにまとまっているが、何かしっくりこない。東京の方でも調べてみるか・・・。

【第10話】

 その週の水曜日の午後、私は渋谷にあるグローボ・トラベルの東京支店を訪れることにした。リカルド田中の亡き妻アナ・バロスの妹であるカロリーナ・サントスの日本での足跡を調べるためだ。
 事前に電話で訪問の趣旨を伝える時、サンパウロ本社にいるらしいセルジオ金城の知り合いの名前を出したところ、その知り合いとは会社の社長だった。
 東京支店は「渋谷109」近くのビルにあるので、訪問の前に道玄坂のブラジル料理店で腹ごしらえすることにした。正午過ぎに行くと、店の中はほぼ満員。昼食時のサラリーマン以外に、女性だけのグループが何組かいる。「外人」顔をした男の一人客が珍しいのか、時々視線を投げかけてくる。
 昼のおすすめビュフェコースを注文し、シュラスコ(ブラジル風焼き肉)やサラダをゆっくり食べながら時間を調整し、「日本人」らしく約束の時間ぴったりに目的地に到着すると、待っていましたと女性支店長のお出迎え。日系人らしい三人の女性従業員も皆笑顔で挨拶してくれる。偉い人の名前を伝えるとアテンドがよくなるのは、いかにも南米的だ。
 応接室に入ると、支店長自ら事務所内に設置されている自動販売機に百円玉を入れ、私好みの砂糖がたっぷり入ったコーヒーを出してくれた。
「あっ、これは木村屋コーヒーですね」
「よくご存知ですね」
「先日、会社の社長にインタビューしました。なかなか野心的な人物ですよ」
「カロリーナは、ブラジル人らしくコーヒーが好きで、一日何杯も飲んでいました。従業員は自分で払って飲むのですが、自動販売機用にいつもたくさんの百円玉を机の引出しに入れていました。実は、その自動販売機を置いたのは彼女のアイデアです。うちは南米関係のお客さんが多いので、挽きたての美味しいコーヒーをお出しすれば喜ばれますから」

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