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「ある日曜日」(Um Dia de Domingo)=エマヌエル賛徒(Emanuel Santo)=(13)

 ある土曜日の朝、二人で近所のコミ捨て場に一週間分のゴミを捨てに行くと、粗大ゴミ置場に、日本人の主婦がまだ使える二人用のテーブルと椅子のセットを持ってきた。聞けば、子供が生まれて新しいテーブルセットを買うので、いらなくなったそうだ。二人はその主婦にお願いして、不要になった家具を頂戴してアパートに持ち帰えることにした。ブラジルではゴミあさりなどしたことがなかった二人は、なんだか恥ずかしく、惨めな思いでその日の午後を過ごした。

 【第7話】

 9月2日・金曜日の夜、リカルドは例によって日本人同僚の不手際の尻拭いをして帰宅すると、アナは、ごみ捨て場でもらった小さなテーブルにベージュのクロスをかけ、いつもより豪華なお惣菜と小さなケーキを用意して待っていた。
 電気代の節約のため、二人そろってから使うことが暗黙の了解になっていたエアコンのスイッチがすでに入っていて、アナが好きなロベルト・カルロスのCDもかかっていて、いつもの台所が別の空間のように感じられる。まるで本当の「新婚夫婦」のアパートみたいだ。
「今夜は何か特別な晩なの?」
「今日はママの誕生日よ。夕方、工場の公衆電話からブラジルに電話して、『おめでとう』を言ったわ。ママは一人で寂しいみたい。私たちのことも心配していたから、『トゥドゥ・べン(大丈夫)』と伝えたわ。今夜は私のおごりだから、一緒にお祝いして」
 二人は、地球の裏側にいるアナの母親の誕生日を祝して、まず缶ビールで乾杯した。
 アナは、三本のろうそくを立てたチョコレートケーキの横に、来日前に三人で撮った写真を置いた。三人で祝う誕生日という意味らしい。
 彼女の母親のためにバースデイ・ソングを歌っているうちに、なぜか二人とも涙を流していた。
 リカルドは、親戚や友人をたくさん家に招いて、にぎやかに祝うブラジルでの誕生パーティーが懐かしくなった。彼の両親は亡くなり、日本で頼れる「親族」といえば、偽装結婚したアナだけだ。
 ブラジルではアナのことを外人と呼んでいたが、日本に来たら彼自身も外人と呼ばれ、まわりの日本人からは差別的な視線すら感じている。
 ブラジルにいた頃、リカルドは祖父や両親から、「日本人として誇りをもって生きろ」と教えられたが、日本に来てから彼は、これからは、「ブラジル人として誇りをもって生きていこう」と思うようになった。
「アナ、日本に来たこと、後悔している? ブラジルにいた頃と違って、惨めな生活だよね。君は僕に頼って日本に来たけど、日本じゃ、僕の方が君に頼っているね。君と一緒に来て本当によかったよ」
「私を日本に連れて来てくれて、ありがとう。私はちっともみじめじゃないわ。優しくして思いやりのある人がいつもそばにいてくれて、今、私はとても幸せよ。実はこの頃、『リカルドとこのままずっと結婚生活を続けられたらいいな』なんて思っているの・・・」
 その夜二人は、事の成り行きから、「結婚後」初めて男と女の関係になった。リカルドは、外人の女と関係をもつのは初めてだった。
 裸で抱き合ってみると、アナの体は、外見の格好よさだけでなく、吸い付くような肌触りと奥底から溢れ出るような暖かさを備えていた。リカルドは、生まれる前に戻って、母親の胎内に包み込まれたような、何か不思議な心地よさを感じた。

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