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【2016年移民の日特集号】テメル大統領代行の今後占う=暫定政権発足から1カ月=低支持率でも経済回復堅持

10日にサンパウロ市パウリスタ大通りで行われたジウマ擁護派のデモ(Paulo Pinto/AGPT)

10日にサンパウロ市パウリスタ大通りで行われたジウマ擁護派のデモ(Paulo Pinto/AGPT)

 5月12日にミシェル・テメル副大統領(民主運動党・PMDB)が大統領代行となり、全閣僚が揃わぬまま発足した暫定政権も、誕生から1カ月が過ぎた。ジウマ大統領の罷免審議継続が決まった事で発足した同政権は、本当にブラジルを変えられるのだろうか。


議会運営は滑り出し順調

社会保障問題で労組の代表とあって話すテメル大統領代行(Beto Barata/PR)

社会保障問題で労組の代表とあって話すテメル大統領代行(Beto Barata/PR)

 テメル氏率いる暫定政権は、閣僚任命の時点でPMDBが唱えていた政治改革の一環でもある省庁統廃合を行い、経費削減への第一歩を踏み出した。その一つである教育省と文化省の統合が世論の高まりで逆戻りし、文化省を再分離するなど、いくつの点で試行錯誤的な色合いを見せ、停職中のジウマ大統領から「一貫性がない」などと批判を浴びたのも確かだ。
 だが、発足早々に上下両院の合同本会議で基礎的財政収支の黒字目標を大幅な赤字とする事の承認を得て、ジウマ氏の罷免審議継続に賛成票を投じた議員達の支持を維持している事を証明。
 6月に入ってからは、最高裁判事を始めとする連邦公務員の給与調整案を下院が承認し、財務省が渋面を作る場面もあったが、8日には、政府の経費自由枠(DRU)を30%に拡大した上、2023年まで延長する件の下院通過を見るなど、議会はまだ、暫定政権に好意的に動いている。

財政調整案の承認は?

 2011年に始まった経済活動の減速は、2015年第1四半期以降、5期連続で前期比での国内総生産(GDP)がマイナス成長となる程の景気後退(リセッション)を生じさせ、4月末現在の失業者は1140万人を数えるに至った。
 だが、今年第1四半期のGDPは、比較対象が小さくなった事や、貿易収支が比較的順調に伸びた事もあり、市場が予想していたほど落ち込まずに済んだ。貿易収支の黒字の伸びは、輸入の縮小と輸出の拡大によってもたらされ、工業製品についても、輸出に力を入れる事で生産調整や従業員解雇を避け、雇用拡大に持っていこうとする動きが出てきている。

暫定政権の経済政策の要のメイレーレス財相(Rovena Rosa/Agência Brasil)

暫定政権の経済政策の要のメイレーレス財相(Rovena Rosa/Agência Brasil)

 こういった動きを読んだエンリケ・メイレーレス財相は8日、テメル大統領代行と共に企業家達の会合に出席。「現在のブラジルが直面している景気後退は、世界恐慌が叫ばれた1930年代より深刻と言えるが、現政権が打ち出す財政調整法案が順調に承認され、機能し始めれば、第3四半期には景気回復が数字でも確認できるようになるはずだ」との見解を示した。
 同相によれば、現在の景気後退は、現状分析を誤り、適切な政策を採らなかった故に起きたもの。現状や景気後退が起きた原因を充分に分析した上で打ち出した財政調整策が機能すれば、「かつてないほど力強い景気の回復を見る」という。
 メイレーレス氏を中心とする経済スタッフは、公的財政の健全化が景気回復などの基本で、そのためにも、予算作成時の歳出の伸びはインフレ以下とする事や社会保障制度の見直しなどを柱とする財政調整策の議会承認は不可欠との考えで一致している。公的財政の健全化が、国内外からの信用を回復させ、景気回復も早めるというのだ。
 暫定政権が5月に打ち出した財政調整策は議会の承認を必要とする部分もあり、実際に機能し始めたとは言えない。だが、国外の投資家達は、ジウマ大統領の罷免問題に決着がつき、国が目指す方向性が明らかになった時点で投資を再開する意向だともいう。政権交代後に大手企業が多額の融資を獲得したとの10日付エスタード紙の報道も、この事を裏付けている。
 そういう意味では、第2期ジウマ政権がジョアキン・レヴィ氏を財相に据え、財政調整を目指したのは正しかった。国際通貨基金(IMF)の関係者がブラジルを訪問し、政府と議会が一体となってレヴィ氏の提唱する財政調整を実現するよう望んだ通りになっていれば、レヴィ氏が描いた「15年下半期からは景気回復」も実現していたかもしれないのだ。
 ブラジルの事だから、建前と本音、あるいは建前と実際が食い違う可能性は充分あるが、不況もそろそろ底を打ち、回復に向かう事を望まぬ国民はいない。ただ、エドゥアルド・クーニャ氏の議席剥奪問題の長期化などで議会が止まれば、経済の回復も遅れる。

罷免問題の行方はどうなる?

10日にルーラ研究所を訪ねたジウマ大統領(左)とルーラ前大統領(Ricardo Stuckert/Instituto Lula)

10日にルーラ研究所を訪ねたジウマ大統領(左)とルーラ前大統領(Ricardo Stuckert/Instituto Lula)

 政界の混乱といえば、ジウマ氏の罷免問題が具体化し始めた頃、「ジウマ氏続投ならドル相場は限りなく4レアルに近づくが、テメル政権になれば3レアルに近づく」との声も出ていた。
 為替は国外だけではなく、国内の政治の動きにも敏感に反応する部分があり、中銀新総裁の諮問当日も相場が動いた。行き過ぎたレアル安は輸出にはプラスに働いても、インフレを押し上げる恐れがあるし、急激にブレれば、市場の予想を困難にする。
 他方、ジウマ氏が停職後に復帰できるか否かは、テメル政権の舵取り次第との記事もあった。テメル政権が墓穴を掘るような失策を犯せば、やっぱりジウマに任せておけば良かったと言い出す人が出てくるというのだ。この辺りは、コーロル氏の罷免後に成立したイタマル政権と大きく違う。
 この1カ月間、経済面では、工業生産が若干回復かといった声や、貿易収支の黒字拡大、GDPの落ち込み緩和といった明るい話が出始めた。その一方、ラヴァ・ジャット作戦(LJ)絡みでPMDBの要職者名が出てくるなど、汚職に関する報道は続いている。8日発表のCNT/MDAによる世論調査で、「汚職という面ではジウマ政権も暫定政権も変わらない」と答えた人が46・6%いたのも肯ける。
 上院罷免特別委員会や最高裁長官は、LJで名前が上がり、報奨付供述が認められたトランスペトロ元総裁のセルジオ・マシャド氏の録音を罷免審議の材料とする事に反対しており、LJの捜査妨害によるPMDB要人逮捕が起きるか否かについては不透明だ。
 一方のジウマ氏は、同じLJ絡みの報奨付供述で大統領選の裏金疑惑が噴出しており、罷免審議には直接の影響がなくても、選挙高等裁の審理で影響を受けそうだ。
 14年3月に始まったLJは、政治や経済にも多大な影響を及ぼしており、オデブレヒト社などは相当な額の負債も抱え込んだ。今月に入ってからは、官房長官なども務めたが、閣僚解任で不逮捕特権を失ったアロイジオ・メルカダンテ氏やジャッケス・ヴァギネル氏に対する裁判資料が、最高裁からパラナ州連邦地裁に送られたという報道も出始めた。
 デウシジオ・アマラウ元上議の供述で明らかになった容疑故に最高裁扱いとなったルーラ前大統領に対するLJの捜査妨害疑惑も、デウシジオ元上議の罷免成立で連邦地裁行きとなりそうだ。ジウマ氏との会話の盗聴が騒がれた官房長官就任劇も、ジウマ氏の罷免が成立すれば、別の形の捜査妨害として、連邦地裁行きの可能性が高い。
 ジウマ氏は9日、罷免を免れた場合の施政方針を発表する意向を表明した。一方のテメル氏は就任前後から「国民には不人気であっても、国のために必要な政策を行う」と言っていた。
 現在の支持率は11%と低く、10日は4州で社会保障制度の見直しが権利喪失になる事を嫌う労働者達のデモも行われたが、LJ絡みの報道が暫定政権よりジウマ氏または労働者党(PT)政権に不利に働きそうな状況下、先の言葉を本当に貫き、経済関係で大きな失敗をしなければ、暫定政権継続の可能性は高そうだ。

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