日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(15)
そのような事を許せない日本人のグループにより「大政翼賛同志会」が作られた。これの元になった「大政翼賛会」は、近衛文麿を中心として日本に作られた左右合同の政治団体だった。
「大政翼賛同志会」はブラジル在住の日本人移住者を自国に帰還させるための運動をしたグループで、その最中に日本人の平兵譽が4月12日に、イツーの町で逮捕されたのである。彼はサンパウロの町から出発して、ガルサの町を通って徒歩で旅していて、通行許可書も所持していなかったし、ガリ版刷りの日本語で書かれた文章を何枚も持っていた。
彼が逮捕時に持っていた書類は訴訟記録1から8の中に混ざっていた。これらは平がリーダーの一人であった会が、どのような活動を行っていたかを示しているので、書類1、7、並びに8をそのまま転写したいと思う。
【書類1】
我らの趣旨
わが国の民の使命は道徳の道を歩む世界を創ることにある。道徳の世界は日本人魂なくしては創ることができない。日本人魂なくしては日本人などあり得ない。日本語教育なしでは、子供の育成はできない。家庭内の教育だけでは、教育の効果が上がらない。社会、学校、家族の協力なしには、教育の効果は望めない。
自由主義を改めよ。
個人主義を打倒しろ。
資本主義を改めよ。
共産党を破滅させよ。
道徳に基づいた相互扶助の社会の建設に協力せよ。日本人子弟が外国人嫌いな白人国家の奴隷となることを許すべからず。
天皇家を中心とした社会環境の建設に力を合わせよう。日本人子弟に自国と呼べる国土を与えよ。
ブラジルの日本人子弟は同国において、特殊な存在になっている。祖国のない民は滅びる。ブラジル在住の我々に天皇家を中心に活動する環境を与えなければ、我々の子弟は白人社会に同化せざるを得ないであろう。
同化は最終的には一つの国民の自殺行為だ。我々の民の発展と進歩なしには世界平和はあり得ない。もし、不幸にも、これから来るであろう我らの世界に移住の自由が実施されなければ、少なくとも、現在ブラジルに在住する同胞がアジアの国に帰還される自由を認めることを望むものとする。
【書類7(会の構成)】
(1)会長、(2)評議員会、(3)青年会、(4)本部、(5)総会、各路線の代表者(鉄道)、本部要員。
《中央に》(6)全国会議。各駅の代表者。本部要員(各路線)。(7)支部代表者会議。本部要員。
《それぞれの駅》(8)支部の会議。各部の代表者。本部要員。
《植民地の核となるもの》(9)一つの支部―10人から30人。(10)1回の会議―10人以内。(11)30人以上の会員紹介者には1か月の会費が免除される。
【書類8】
(1)本会の会員は、最上級の命令として、いかなる場合も会長の指示に従う。
(2)会員は、スポーツや日本古来の武士道(侍の規範)に連なる武道を通じて子弟の健全な心身の発育や教育に携わる。
(3)会員の信心の対象は、我が国民の神である天照大神とする。神や先祖を敬意をもって敬い、信仰心をもたなければならない、であるから、信仰の自由を認めるが、上記に述べた信仰に反するような信心は避けなければいけない。
(4)会員は忠誠心を持ち、仲間を疑うような行為は避けなければいけない。
(5)会員は教養豊か生命力に溢れた生活をしなければいけない。
(6)会員はその相互の交際範囲において、形式的な礼儀作法は避けるが、品性は保つべきである。
(7)会員は相互扶助の精神を培い、皆の繁栄と幸せを願い、困っている会員がいた場合、総ての方法で助けなければならない。
(8)会員はその長に仕える者として、常に知識を磨き、緊急時には感情に溺れず、知性をもって行動し、冷静沈着の中にも向上心を失ってはならない。
(9)会員は民衆に対して軽蔑を顕にするような態度をとってはならない。知性高き人間として行動し、「民衆は知恵者」と思い、寛大な心で接しなければいけない。
(10)会員は高尚な生活をし、農作業を尊重し、土と共に生き、「農作業に生きる階級の者と戦いつづける者とが手を取り合う」ことが国家の繁栄に繋がる。