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ニッケイ俳壇(894)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

腕組を解き炎天に出て行きし
流れ星燃え尽きし如移民逝く
パイネーラ花色濃きが侘しき日
受難日は雨山鳩が啼いている
この森のピッタンガ熟れしを誰も知らず

【『念腹の残党奥地の虚子忌わする』と出て居たが、正しきは『念腹の残党奥地の虚子忌守る』であったと正して下さった。これは私の手おちであった。お詫びする】

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

花まつり柄杓持つ手も老いにけり
パラグアイの友優し春の朝
春地震九州ゆらす次々と
九十年生きて倖せ春の宴
主病める空家の桜盛り過ぎ

【作者は卆寿をむかわれたのだ。およろこびを申し上げる。きびしい寒さの北海道でお元気であられる】

   プ・プルデンテ       野村いさを

ミーリョ畑続くパラナ路冬霞
いきなりのたった一つの冬の蕾
寒菊をたずさえ妻の墓参る
想い出は母のいつもの木の葉髪
パリロツシエの旅なつかしやポンチョ着て

【野村さんは「木蔭」の一号から終刊号を持って居られて、それをサンパウロの文協におさめることになってよかったと云って来られた】

サンジョゼドスカンポス   大月 春水

宵の秋人待ちて佇ちつくす
あの頃は若かりしアルバムを繰る
秋空に寒冷前線控え目に
久闊を叙す娘の掌の暖かく
鳥居の奥の広き秋の園

   サンパウロ         湯田南山子

秋の夜のテレビが告げる大震災
大震災被る平和な春の夢
夢であれと祈る春の大震災
家潰し人を埋めて春の地震
春無情火の国に神無きかとも

   イタチーバ         森西 茂行

セボーラの種を取りにし葱坊主
 ※『セボーラ』はポルトガル語でタマネギのこと。
燃ゆるようなアマリリス眞赤に咲きそろい
かたつむりでんでん虫の異名あり
駝鳥類小型のエマが逃げて行く
ダリア咲き桃色の花道ばたに

   ソロカバ          住谷ひさお

秋日濃し時計台背に人を待つ
アバカテの緑が楽し朝カフェー
晩雪も好みしアリゲートルペアーとは
母の日や爺婆語る懐古談
市端に盛り瑞々し新生姜

   イタペチニンガ       和賀 耕睡

読経に霊力ありし西陽射す
読経も汗流れはじめ扇風機
一法衣洗って良しと夏近し
法事止み日語分からぬイッペーの花
日語かなお経難解夏の雲

   サンパウロ         鬼木 順子

窓に射す澄みたる夜空冬の月
冬ざれや兎舎子等の声澄みて
寒波来る雨風爪痕残し去る
手にあふる水冷やか冬めきて
木々の葉の丸まって落つ冬の庭

   サンパウロ         寺田 雪恵

秋空の風船をゲイの祭にもらいたり
残り虫首かしげ見る子猫かな
包丁の重さで熟れし南瓜切る
アラーラ鳴き声バラバラの秋の暮
風船も苦労ありけり秋の雨

   サンパウロ         小斎 棹子

コチア組合南米銀行移民の日
北民の季寄せ開く移民の日
同年の死亡公告冬の朝
移民の日更らに高まる帰心かな
これよりのセッカの月日パイナ吹く

   サンパウロ         武田 知子

小春日や両手パチパチ曽孫一才
パイナ舞い無数の命運ぶ風
身に適ふ歩幅守りて小春の日
宝石の如く樹の間の星冴ゆる
柚子風呂の香を分つ人居らず
余震なほ怯ゆる列島心萎え

   サンパウロ         児玉 和代

夕茜色失へば寒夜空
捨て難き県人意識移民の日
繰返し寒さを云ふも老美しき
白飯にフェイジョンの半生移民の日
パイナ吹く青き晴間の光縫ひ

   サンパウロ         馬場 照子

熟年と名を変えしクラブ移民の日
趣味娯楽老後に励む移民の日
ばらまきて巨額の負債国凍てる
代行統領パウリスターノ冬ぬくし
愛国心持てと飛び出すパイナかな

   サンパウロ         西谷 律子

母の日や母の形見の服を着て
母の日や孫生まれると亡母に告げ
老ふほどに心寄りそひ残る虫
母の日や花屋の母は指揮とって
わが影を長くのばして冬に入る

   サンパウロ         西山ひろ子

母の日や手作りボーロ仏前に
母の日の祝われ祝い母三人
母の日のもてなし子等の笑顔かな
乾き行く風と大気や冬めきぬ
つつみ込む熱き握手や秋惜しむ

   サンパウロ         三宅 珠美

節水の噴水涸れて冬ざるる
子供連れ多きパークや冬日和
突然の気温の変化や冬支度
メーデーや日曜日とて静かなる
雪見客どっと押し寄すサンジョアキン

   サンパウロ         原 はる江

祭日の続く楽しきマリア月
娘の呉れし赤チュウリップ五輪咲く
冬めける人々和める聖火リレー
母の日を皆で祝ふフェジョアーダ
混乱のブラジル政界冬に入る

   サンパウロ         山田かおる

「お気をつけて」と云われて齢知る秋ぞ
秋の灯の島に点々アングラの海
海の宿朝食夕食秋の鐘
水澄める海辺の宿心癒さる
老ク連ビンゴ大会大あたり

   ピエダーデ         小村 広江

星涼し星座きらめく里仕事
老いて今一人は淋し月見豆
立秋と云う青空の広さかな
耕して新涼風と共にあり
つややかな広葉に映える石蕗の花

   サンパウロ         大塩 祐二

ミサ前の鐘の音澄みて秋の朝
涼やかな風街路樹をくしけずる
背高くなよなよゆれる秋桜
浮雲の白さ目にしむ秋の空
浮雲のゆったり渡る残暑かな

   サンパウロ         大塩 佳子

秋暑く背に汗にじむリックサック
秋の日の今も妻恋ふ句美しき
祖母作るきりたんぽ鍋吾を待ちて
スマホ学ぶ媼ら美し秋の午後
オクラ買う通じよくなるすぐれ物

   サンパウロ         柳原 貞子

犬も吾も好む道あり露に歩す
すこし風ありてコスモス日和かな
すこし老い身に入む風に季節問ふ
次世代が次ぐ復興天高し
秋霖や老いては涙もろくなり

   ピラール・ド・スール    寺尾 貞亮

新生姜掘りて刺身に備えけり
良書読む心は楽し秋灯下
新米の玄米飯にゴマ添えて
新鮮に誘われ買いししめ鰯
好物のおでん目差して大根蒔く

   リベイロンピーレス     西川あけみ

一才孫交えて昼飼野良小春
移民の日元下駄屋のおかみさん
パイナ飛ぶ福博村の曲り道
移民着くいつか逢わんと約束し
昭和の子と云われし我等移民の日

   サンパウロ         岩﨑るりか

夕日うけ川面のパイナ音も無く
陽のにほうパイナ枕の心地良き
恋人の日墓碑に花添え祈るひと
賑やかな祭太鼓や移民の日
さまざまな夢乗せて来し移民船

   サンパウロ         川井 洋子

何もかも忘れて居たし虫の闇
コスモスの群に見る風の道

   イタケーラ         西森ゆり江

移住地に残るは柿の古木のみ
ただ歩くだけに来し野や鰯雲
育てたる子にいさめられ秋思かな
新涼や吾がつぶやきを犬が聞き
ひまわりや少女は気取りなく

   ヴィネード         栗山みき枝

雨多し里道土手の草いきれ
老の食又細り居て詮もなし
牧の暮動くともなく牛の群
物価高物毎の値上りに
姉妹けんかする程仲が良い

   サンパウロ         平間 浩二

久々の旧知の出合ひ新酒酌む
透き通る熟柿に銀のスプンかな
群れ咲きてたわむる風の秋桜
朝露にひしめき合いて貝割菜
旅終えてほっと一と息鰯雲

   サンパウロ         太田 英夫

片言のヤスイウマイは鰯売
浅漬の重石となりぬ丸南瓜
椰子帽子やぶれ穴から覗く髪
虫の音や聞いて居るよな寝てるよな
名は捨てて値段で選ぶ今年米

   アチバイア         吉田  繁
秋灯下コチア六十年誌しみじみと
わが乗りし船馬肥ゆる国に着く
母の日や妹抱く母との古写真
末枯や一日会話なき暮し
旅の秋孫四ヶ国に住み居れば

   アチバイア         宮原 育子

秋高し展望台より手を振る子
嫁ぐまで移住荷の雛飾りし娘
震災より還りし雛と展示され
浴衣着て遊戯の孫の雛まつり
鹿児島は岡蓮根と呼ぶキヤボ

   アチバイア         沢近 愛子

温泉の宿や椰子の葉蔭に茜花
古里の登校径に花木僅
秋の旅入日美し地平線
鄙の道蜻蛉飛び交ひ愛らしき
夜半の秋星はきらめき月丸し

   アチバイア         菊池芙佐枝

この餅が皆の幸呼べ汗に搗く
月下美人次の月夜は暦見る
初夢の我は十八夫七十
初夢は夫との訣れあじさい路
つい寝坊来る初日の出は遠いこと

   マイリポラン        池田 洋子

秋の蝶いつもは居ない通勤路
露草の色鮮やかに清々し
川あふれ行くことならず秋濠雨
秋の風シルバーシートに心地良し
雛まつり浴衣で祝う伯の子等

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