ホーム | 文芸 | 俳句 | ニッケイ俳壇(884)=星野瞳 選

ニッケイ俳壇(884)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

野良の雨降りそびれたる残暑かな
宙をとび逃げる蛇追ひアヌン二羽
草青む牧場に光る沼一つ
屠蘇酌み我百才をブラジルに

【作者は単身で一九三十四年八月三十一日、モンテビデオ丸でサントス着。同年九月三日、アリアンサに入植。今年その地を一歩も出られず、百才を得られた。唯一の好きな俳句で『アマゾンを遡りくる白雨かな』の一句で、日本の文部科学大臣特賞を得られた】

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

エアメール片手に杖もつ雪の道
母の雛娘の雛も飾られし
春風や父母の齢越え生かさるる
寒つづく確実に来る春を待つ
今日雨水降る雨雪に変りけり

 【元気に在られますこと、心からおよろこび申し上げます。私も元気で、もう二つ寝たら百才になります】

   カンポスドジョルドン    鈴木 静林

秋夕陽波紋きらめく山の湖
ブランコも出水が浚らう大出水
大出水中止となりし野外劇
秋日和旅の役者等町散歩
秋日和化粧落した旅役者

   グァタパラ         田中 独行

筍を掘り来て昼の遅れけり
筍や独立をして植えし竹
ソルベッテ外は真白き日向かな
ソルベッテ孫出しにして憩いけり
ポ語わずか覚えて果やかたつむり

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

先人の日記読む日々秋深し
濃霧晴れ町の富士山凛と立つ
包装紙より派手に菊の鉢
身勝手な教えの解釈聖週間
果し得ぬ教徒の勤め聖週間

   サンパウロ         湯田南山子

天の川特に輝く二つ星
天の川見ぬ夜はさびし句友恋し
さわやかに老のさだめを諾(うべな)わん

   ソロカバ          前田 昌弘

はぐれ仔鹿ママデイラで育てられ
 ※『ママデイラ』はポルトガル語で哺乳瓶のこと
食の秋料理番組花ざかり
初嵐渦巻き過ぐる雨と風
パイネイラ散り敷く路地をなぜに急く
コンドミニオに山野の名残りクァレズマ

   リベイロンピーレス     中馬 淳一

秋草を食べて乳牛乳よく出
コスモスや風にゆられて紫紺かな
大輪の菊を咲かせて老自慢
新涼や月光受けてカリフラワー
鉄塔や天にそびえて天高し

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

終着は山焼曇りの南麻州
牛群に道ふさがれし麻州旅
麻州富士南伯富士と客案内
初夏の旅鉱山の道宝石の町

   サンパウロ         鬼木 順子

一切の檸檬深きに香り立つ
もみほぐす手美しき衣被
夕膳に苦瓜ありてほろ苦き
八十路秋終の国まだ定まらず
髪染めて覗く鏡や草の花

   サンパウロ         寺田 雪恵

リンゴ半個で空腹みたせし秋の夜
地虫鳴くいまだ幼なき声がなし
里芋に大根豆腐で鍋は白一色
ダリア園には見むきもせずツカーノ鳴く
朝顔の途切れぬ様にと種をまく

   マナウス          東  比呂

霧上がる大河に漁の舟の数
大山車の夜々に高まるカルナバル
カルナバル飲む人見る人踊る人
秋の灯や星の一つに数えられ
釣り人の釣り具見せ合ふ秋灯下
老移民相撲見昔なつかしむ

   マナウス          東 マサエ

さるすべりの花に囲まれ孫祝う

   マナウス          宿利 嵐舟

振り返り名残り惜しめば霧時雨
霧の中去り行く影も見え隠れ
あなうれし朝顔今朝は三つ咲き
秋灯下また読み返す故郷便り
暘に熱狂響くカルナバル

   マナウス          河原 タカ

行き過ぎる霧に消えたるマラソン選手
霧の中握りしめたる濡れ手紙
南国の朝顔毎日開きたる
大相撲に左右にゆれる大いちょう

   マナウス          松田 永壱

朝霧の薄ら身体に涼を呼ぶ
パクー釣る食卓飾る夕餉どき
年間の稼ぎつぎ込むカルナバル
サンバ踏む人種のルツボ軽やかに
初場所の日本国技ヒーロー力士
復活祭老いも若きも無信仰

   マナウス          山口 くに

遡航する合図の霧笛霧の中
パクー捌く世帯上手なマナウァーラ
何もかもカルナバル済んでからの声
秋灯下ジュート移民の歴史悲話

   マナウス          橋本美代子

朝霧に漁のカノアの声湧く関が原
マナウスの雨にたたからるカルナバル

   マナウス          村上すみえ

河霧にぽとぽと上る灯し船
霧濃ゆく大河も島も無きし如
老夫婦狭庭に朝顔愛でていし
揚げパクーフロリンニャとサラダの昼弁当
サンバ山車曳く男等の力かな
発ちてすぐ狭霧に消えし機影かな

   マナウス          丸岡すみ子

テールランプ連なる先の霧の街
冷気満ち霧に眠れる樹海かな
薄き身を外すも楽しパクー食ぶ
ジカ熱も不況もさておきカルナバル
酔いしれる自慢の衣装やカルナバル
朝顔や今朝も増えしと子の笑顔
パクー焼く脂の香りも旨きかな

   マナウス          渋谷  雅

別離の夜霧に消え行くテールランプ
交替でハンドルにぎる霧の夜
霧の朝旅立つ娘の無事祈る
カルナバル老若子供サンバ踏む
空しさと疲れの残る聖水曜
秋灯下開拓話に花が咲く

   マナウス          阿部 真依

霧が晴れマチュピチュ遺跡に息を呑む
パクー食べ嬉しくなって写真撮り
朝顔より早起きをしてはジムへ行く

   トカンチンス        戸口 久子

アマゾンの樹海霧にし包まれる
朝顔や朝日を浴びて満開す
秋の灯やアマゾン大河目の前に
キリストが三日後十字架に復活祭

   サンパウロ         武田 知子

桃剥ぐや汁肘まで滴たらせ
   サンパウロ         児玉 和代
吾が無力骨身にしみて秋暑し
新涼や薬忘れて一と日過ぐ

   サンパウロ         西谷 律子

ひまわりをゴッホの絵のごと活けてみる
街路樹のパッサリ切られ天高し

   サンパウロ         西山ひろ子

遙かなる人への思いしぐれ虹

   サンパウロ         新井 知里

花茗荷みつけし庭のある暮らし
桔梗の蕾のままが好きな人
秋の昼ビンゴに気合入れて待つ
なでしこや少女の頃もあったのに
秋晴の人集いよりモジ祭

   サンパウロ         原 はる江

渋滞を慰めマナカダセーラ咲く
矢の如き月日に追われ暑に耐ゆる
降る度に徐々につれ来秋なりし
雛の日生まれし節子はやさしい娘
九十四のごきぶり潰す早さあり

   サンパウロ         三宅 珠美
コスモスと優雅に競う友卆寿
二十余の朝顔咲きて庭せまし
新生姜大好物のヂアリスタ
秋愁う汚職の坩堝いつ果てる
草の花堀のわれめたくましく

   サンパウロ         竹田 照子

卆寿祝ぐわれ最幸の嶺に立つ
雲海に身を沈めたきとふと思う
夏時間終りてよそぐ宴かな
秋そよぐウォーキングも楽になり
秋の雲カメラにおさめる間も待たず

   サンパウロ         玉田千代美

気がかりの一つは消えて秋日和
みかんむくその香に暮るる秋時雨
ひそやかに宵の風音朝落葉
鯉深く沈み泳ぎて秋時雨
病みおりておしゃれ心も失せており

   サンパウロ         山田かおる

秋灯下故郷のたより三度読む
今日佳き日笑顔揃いし女性の日
蘭咲き初む花が季節を知らせ呉る
鉢植えの初生りトマトに亡母笑み
秋晴れに句友卆寿の宴おめでとう

image_print