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ニッケイ俳壇(872)=星野瞳 選

   アリアンサ         新津 稚鴎

髭の美男長靴の美女シュラスコに
鳥雲に浮足立って出稼ぎに
混血の貰ひ子なつきクリスマス
アマゾンの蘭元日の卓上に
移住地に風鈴と住み六十年

【稚鴎さんは十九才の時、単身でモンテビデオ丸に乗りサントスに上陸し、直ちにアリアンサに入植して今日まで一歩も出ず、自分の天地を作り上げた。そこには地平線で果てる大牧場で牛を飼い馬を飼い、ゴムの木の植林、チークの木の植林、マホガニの木の植林、生長した息子達がやってくれると云う。当時アリアンサに住んだ念腹に俳句を学び得た。百才を得た今、第二句集を出す元気な頼もしい作者である。稚鴎さんは移民ではなかった拓人だった】

   北海道・旭川市       両瀬 辰江

行く秋を追うが如くに雪の降る
雪降ると予報違わず積る夜
動かぬ雲じっと見つめて暮れる秋
冬のバス乗る人もなく灯をともし
我が齢急ぐことなし早師走

   プ・プルデンテ       野村いさを

空しき日もありうたかたの古日記
ニグラには気のつく女とすす払う
茅の輪くぐる備後古市素盞嗚社
年守る行脚句会をせし事も
水中花コップに入れるまでの夢

   ボツポランガ        青木 駿浪

深山咲く精ある如し水芭蕉
一日中鋤きし耕馬を洗ひけり
不意の友半裸を詫びて老父かな
八年の病臥の妻と年惜しむ
妻病衣乾かぬままに雨季来たる

   サンジョゼドスカンポス   大月 春水

びょうぶ岩当って安らぐ夏の風
点滅の聖樹に年齢又一つとり
若水を汲む卆寿の年齢なれど
スモグが晴れて夏陽が照り出しぬ
お雑煮を祝ふおせちの元旦に

   ジョインヴィーレ      筒井あつし

イペー咲く十一月も末にして
イペー咲き師走の街を明るくす
迂回してイペー落花をめぐる今朝
天も地も枝も黄金にイペーかな
口々にイペー開花を話題とす

   ソロカバ          住谷ひさお

今年も矢のように過ぎ年惜しむ
床屋でのよもやま話年の暮
移民して五十八年目日記買ふ
ブザー鳴る又年末の物乞ひが
買物の袋片手にコカコーラ

   サンパウロ         鬼木 順子

露涼し朝焼けの空茜雲
くちなしや馨しき香の風にのり
巣立つ子に幸多かれと祈る宵
夏の蝶学舎の窓に雨宿り
舟頭や唄声冴える舟下り(柳川下り)

   サンパウロ         寺田 雪恵

春メトロ不意におみやげキッスされ
猫に似ている素足で歩む春の部屋
健康なだけがとりえの年の暮れ
惚け予防五つの趣味は多すぎる
紺の朝顔凋むが早し夏時間

   ソロカバ          前田 昌弘

蜂の巣の露になりしジャカランダ
夕立や泰然として百才翁
再生林整然として木肌脱ぐ
竹落葉コンドミニオに獣道
露天風呂岩の陰よりこうもりが

   サンパウロ         小斉 棹子

螢火や夫の春秋短かり
忘れゆく幾詩のありや明易し
祖母よりも母でありたき髪洗ふ
涙ぐみ書く礼状や明易し
靴をぬぎ上る畳に年忘れ

   サンパウロ         武田 知子

先づは目で戴いてより夏料理
湯上がりの曽孫の笑顔や天瓜粉
竹の皮脱ぎし青さの幹まぶし
海眩し空もまぶしと炎天下
遂に手を通さぬ甚平夫逝きぬ
プルメリヤハワイの想ひ出辿りもし

   サンパウロ         児玉 和代

うっとうし一枚羽織る夏の雨
極月の大雨流す年の塵
畑に生く皺の笑顔や豆の花
忘年会重ねて何を忘るべき
見返えれば可もなく不可もなく暮るる

   サンパウロ         馬場 照子

紅苞葉花めく夏のクリスマス
三百ヘクタール励む稚鴎のアバカシ畑
鳳凰樹咲く名に恥ぢぬ花その姿
梅雨しげき大地潤すめぐみ雨
パネトネも小振りの並ぶ年の暮

『パネトーネ』はイタリアミラノの銘菓で伝統的な菓子パンの一つ。イタリア移民によってブラジルにも伝わり、クリスマス前から親戚や友人に配る習慣がある。

『パネトーネ』はイタリアミラノの銘菓で伝統的な菓子パンの一つ。イタリア移民によってブラジルにも伝わり、クリスマス前から親戚や友人に配る習慣がある。

(FOTO https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bd/Panettone_vero.jpg)

   サンパウロ         西谷 律子

緩慢に汗の喪服を戻り脱ぐ
道せまくバスの窓打つ鳳凰樹
ダンディな後姿や夏帽子
エス像のふところに居て涼しかり
何はともあれ健康で年の暮

   サンパウロ         西山ひろ子

各国語混ざり乾杯忘年会
すれちがふ羅しゃぼんの香りして
雨止んで陽に透く木々や百千鳥
朝風に乗ってコーヒーの香の涼し
春惜しむ思ひに落日見ていたり

   ピエダーデ         小村 広江

生かされてひたすら生きて師走かな
煩悩の数百八とや除夜の鐘
青嵐鍬先はなれぬ雀二羽
樹下と云ううれしき所青葉風
牡丹蕉王の威厳の納め句座

   イタケーラ         西森ゆりえ

篠笛のあとひく奏春の暮
ジャカランダ異国便りの写真にも
三方へ楽しく別れ暮の春
スケボーをあやつる少女風光る
鉈豆はジャックの豆のように伸び

   サンパウロ         川井 洋子

一年を大事に生きておさめ句座
食べて寝て泣いて笑って年暮るる
急がずとも日々追って過ぎもう師走
あと幾つ寝れば正月童歌
ハイタッチだけの挨拶街師走

   サンパウロ         大塩 佳子

賢こすぎるスマホに苦戦友の夏
師走かな残るそうじの気の重さ
老い二人師走と云うも変りなく
お菓子添え新茶届ける嬉しさよ
夏のミサ歌う愛でさに歌に涙

   サンパウロ         大塩 祐二

あちこちで華やぐグループ忘年会
古タイヤ住家のぼうふら皆あわれ
夏本番散歩に荷重傘合羽
疲れ居し寝間に夜涼の心地良き
ギラギラと鏡面壁のビル暑し
大一樹黄金に染めて金雨蘭

   リベイロンピーレス     西川あけみ

戻り来てやはり我が家よ夏の月
ひとしきり念腹の秘話初夏の句座
夜会服着るウインドウ初夏の街
サラクーラ朝な夕なに我がシチオ
甘過ぎるブラジルの菓子新茶淹る

   サンパウロ         平間 浩二

赤ペンは佳きこと綴り日記集
晴れやかな一病息災納め句座
ともかくも健康第一年の暮
一杯のビールの旨き苦味かな
過ぎ去りし時の速さや年惜しむ

   サンパウロ         太田 英夫

帰省子や猫に素知らぬ顔をされ
追えど蠅払えども蠅又も蠅
羅や着ては眺めて脱いで着て
職を辞し働き蟻を只眺め
蚊を殺し欠伸ころして経あげる

   マナウス          東  比呂

ピラセマの群に網張るカヌー一双
墓参り父の形見の問衣着て
手わたしで荷降すバナナ浮き波止場
恋い鰐の縄張り咆哮夜の沼
変りゆく路傍の草原雨季に入る

   マナウス          宿利 嵐舟

ピラセーマ木洩陽の中影走り
叩かせて大安値待つバナナ市
墓参り風がささやく母の声
親不孝詫びて涙の墓参り
夏帽子アット飛ばされ川の中

   マナウス          河原 タカ

ラガーマンごとく突進ピラセーマ
日系の墓の前にてひざまずく
桟橋で君との別れふる夏帽
アマゾンの岸小さくふる夏帽

   マナウス          松田 丞壱

病床のバナナ見舞いに昔偲ぶ
荷揚港バナナ満載陸揚げす
禿頭孫大笑い夏帽子
乾季来て浮き橋下がり川渡る
猛暑避け陽除傘にも効果なく

   マナウス          山口 くに

塩二トン買ってピラセマ来るを待つ
ピラセマが来たと子がかけ犬もかけ
色変えて大河もり上げピラセーマ
揚げバナナ厨に満ちる香おやつ時
夏帽と虫捕りタモ行く草の中

   マナウス          橋本美代子

ピラセーマ押さるる魚は宙をを跳ぶ
鳥群れて下に渦巻くピラセーマ
怪しかる二つのルビー鰐眼なる
墓参る母の名新たに父に添ふ
夏帽子防げぬ河面の照り返し

   マナウス          丸岡すみ子

ピラセーマ舟に飛び入る魚達
大所帯バナナ一と枝買いにけり
鰐ならぶ同方向に鼻揃え
五分刈りに夏帽かぶり真白き歯
大河航く船にならびし夏帽子

   マナウス          阿部 真依

口いっぱいバナナほうばる笑顔かな
曽祖母の好きな花そえ墓参る
祖父想い焼酎持って墓参る
アマゾンで初めて見たる巨大鰐
作業着に麦わら帽の似合う父

   マナウス          渋谷  雅

バナナ一ケ毎日食して病知らず
沼の鰐目と目が合って後ずさり
墓参りやっと見つける草の中
物置に亡父愛用の夏帽子

   パリンチンス        戸口 久子

ピラセーマ大群なして河溯る
プラッサにバナナ並べて客を呼ぶ
土民云う人飲む鰐も棲むと云う
アマゾンの乾季は暑し夏帽子
湖の沼の日向に鰐一匹

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