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ニッケイ俳壇(895)=富重久子 選

   アチバイア         吉田 繁

ゴヤス路や秋の入日の大あかね

【ブラジルに移民してこの方、あまり旅もしないのでこのような雄大な俳句には、何時も心引かれる私である。
「秋の入日の大あかね」という言葉の選択で、美しいゴヤス路の夕焼け空の光景が、油絵のように心に描かれる巻頭佳句である】

旅幾つ重ねていつか秋半ば

【その様な旅を重ねているうちに、何時しか秋も半ばとなり、出湯に句友と旅の夜々を過ごしながら、句帳でも広げては心豊かに憩うているところであろう。旅吟は何時でもよい俳句が詠めて楽しいものである】

温泉(ゆ)の町に句友も四人バスツアー
暗闇に秋の蚊耳に触れて鳴く
旅の夜や眠りの前の咳一つ

   サンパウロ         馬場園かね

冬ざれや部屋にひとりの音させて

【「冬ざれ」は冬、草木は枯れ果てて天候も荒び終日寒さがやわらがず、丁度今のサンパウロのこの頃の気候であろうか。今年は平年に比べて寒さが長引くように感じるのは、年老いたせいかなと思ったりするが、結構若い人も寒がっている。
 この句の様に、そんな寒々とした日でも何か片付け物でもしているのであろう。アパートに一人暮らしの私にも、身につまされる俳句であった。「ひとりの音させて」という、優れた省略の効いた佳句であった】

山眠るときどき汽笛の子守唄
放れ駒牧柵低き脂肪草
旅の子へ思ひを馳せて着ぶくれて
冬菜採り急げや急げ日が昇る

   パルマス          宇都宮好子

各々の好物揃へおでん鍋

【「おでん鍋」は普通、汁をたっぷり使ってがんもどき、ちくわ、焼きとうふ、はんぺん、こんにゃく、大根などを醤油味で煮込んだものでそれを好みによって皿にとり、辛子をつけてたべる。この頃のように寒い時の夕食には、家族そろって頂くと一層美味しく楽しい。 
 この句は、各々が自分の好みの物を持ち寄って賑やかに頂くと、賑やかな晩餐会となると言うものである】

秋霖や芝も日毎に色褪せて
首すじにしのびくる風冬近し
視界には何も入らぬ大枯野

   ペレイラバレット      保田 渡南

稲株を大きく抱きザクと刈る

【この俳句を読んだ時、私もやったことのある稲刈りを思い出していた。終戦後戻ってきた農地の稲刈りをしたが、一度もしたことのない稲刈りを農家の人達の仲間に混じってやった。その時の稲の感触が忘れられない。
 この句の通り稲株を大きく左手で握り胸元にひきつけて、研ぎすませた鎌でざくっと刈り取った時の快さ。爽やかな佳句である】

瘤ゆすり行く牡牛や天高し
木々枝をこすりて嘆く野分かな
水没の村を語るや虎落笛

   ポンペイア         須賀吐句志

寄鍋や子育て頃をなつかしむ

【「寄鍋」は鍋料理で、鳥や魚、貝や蒲鉾野菜豆腐と、何でも冷蔵庫にあるものを入れて、汁を多目に煮ながら食べる料理で、この句の様に子育ての頃の寒い時期には、温まるし栄養も抜群でもってこいの鍋料理である。
 「子育て頃」とあるが、移民してきた我々には誰でもが経験した、子育ての思い出として嬉しいことも辛かった事も、忘れられない想いのこもったしみじみとした俳句である】

踏まれつつ土に還ってゆく落葉
七癖をかくして老の冬帽子
寄鍋と言うも二人じゃ味気なく

   アチバイア         宮原 育子

秋灯火旅に出し娘を地図に追ふ

【子供達も成人になると、友達たちとアメリカやヨーロッパなどに平気で旅をする様になる。最近の子供達は皆英語やフランス語くらいよく話すので、あまり心配することは無い。
 作者も娘さんを旅に送り出してから、地図を広げて探して見る。「地図に追ふ」という下五の言葉に母親の仄かな愛情がにじんでいる】

日本語を学ぶ子に咲く花木槿
足下に残る蚊ひそむ終夜バス
一陣の風肌洗ふ今朝の秋

   アチバイア         池田 洋子

孫と祖母枕並べて秋の夜を

【「孫と祖母」とは、なんとなく仄かな淡い愛情の感じられる絆のような気がする。私には十一人の孫がいてどの孫にも同じような慈しみをもって接している。
 この句の「枕を並べて」なんて、本当に優しい孫への愛が感じられる佳句であった】

秋空に向かひて白き花たわわ
身ごもりし頃より西瓜好物に
温泉に水着の群れや秋の夕

   サンパウロ         近藤玖仁子

水鳥やまづ己が身を清めては

【「水鳥」といえば、白鳥、鴨、雁、鴛鴦などなど多くいるが、大体秋渡って来て春帰っていくものが多いので、冬の季語となっている。川や湖などで餌をあさり、寒い水の上で沢山かたまったりして冬を過ごす。
 この句の「まず己が身を清めては」とあるのは、水鳥は水に滑り込むと、すぐに羽を広げたり羽ばたいたりと、忙しげにみずに馴染みながらの動きが見られる。そうして浮き寝鳥となって安らぐのであろうか。 よく水鳥の仕草を見ての写生俳句であった】

冬木立むかしむかしの恋の傷
人声のやうなチェロ聞く霜雫
木の葉雨一服に足るコブ茶かな

   イツー           関山 玲子

蔓サンジョン咲きて我が家へ一本道
何故か人急ぎ足なる冬の町
政変をよそに豊かな菊咲けり
冬の月何故か恐いと寄り添ふ子

   サンパウロ         畔柳 道子

待ちわびし便りも来ずに冬となる
冬晴れの歩道を男女かしましく
眩しげにまたたき嬰児も日向ぼこ
冬が来て私の脚が痛み出す

   サンパウロ         渋江 安子

車窓より見ゆる街路樹冬ざれて
冬の川水の流れもゆるやかに
凍蝶や太陽出でて羽広げ
欲張りて大き白菜買うて来し

   サンパウロ         秋末 麗子

色紙の小旗はためくジュニナ祭
冬ざれや野辺の草木も緑失せ
脂肪草大地自在にピンク色
ジュニナ祭楽と踊りで活気の夜

   サンパウロ         建本 芳枝

指先の感覚痺れ冬菜摘み
音も無く細く崖落つ冬の川
親の苦労しみじみ今日は移住祭
来し方を書き残す伯父移住祭

   サンパウロ         上田ゆづり

夕暮れの侘しき色や冬ざるる
紅イペー掃かずにしばし夢心地
脂肪草草原風情にビルの庭
眠るまで子守唄をと冬の暮

   サンパウロ         日野 隆

流氷や風に流されきしむ音
黄金の稲の穂先を風そよぐ
霜柱陽にキラキラと消え失せぬ
冬来るたび故郷の景色懐かしむ

【流氷の俳句は、私もテレビで見てその音を聞きました。良い句でした】

   スザノ           畠山てるえ

秋の蝿追へど払へどつきまとひ
雲にのみ照らす太陽秋燕
霧流る今年はじめて見る朝
仰ぎ見て振り返り見てパイネイラ

   カ・ド・ジョルドン     鈴木 静林

水涸れて学童通ふ河原道
水涸れて人の行き交ふ河原道
種茄子や離ればなれに寂しかろ
荷馬車行く後は泥土の霜の道

   オルトランジャ       堀 百合子

襟巻きを買ったばかりで使はずに
カラオケや襟巻どれにしようかな
枯野行く老犬哀れ病ひ持ち
八十路きて学ぶことあり玉子酒

【今日の新聞に、「生涯現役社会をめざして」という小川氏の言葉がありました。その中に健康で長生きできる秘訣は「働く、しゃべる、くよくよしない」の三点が必要とありましたが、「八十路きて学ぶことあり」とは本当ですね。いい句で励まされます】

   ソロカバ          前田 昌弘

ビル街の表通りや片時雨
母の日や母の実感しみじみと
六月に入るも連日雨ばかり
連日の雨に果敢なき紅イペー

   ピエダーデ         高浜千鶴子

移民祭違はず白梅咲き盛る
久し振り会ひし母子に日短か
一夜漬重しにアバカテ置いてあり
信じ合ふ握手は固し草もゆる

   アチバイア         菊池芙佐枝

落葉投げ埋もれ遊びし友も逝き
ゴヤス旅郷愁誘ふ赤トンボ
火焔樹や炎を燃やしタンゴ舞ふ
友逝きて再び巡る秋茄子季

   アチバイア         沢近 愛子

温泉の(ゆ)宿や句友と集ひ秋語る
図太いな昼寝狙って来る秋蚊
秋鯖の色姿良く買うて来る
秋暮色庭木に止まる番鳥

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