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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(40)

「なんだって、青森かい」
「あなた青森に行きましょう」
「青森は、ちと遠いよ」
 しかし千年は、「しかし、待てよ。ホテルに泊まるより良いかもね。そうだ青森にしよう。そうだ、まず東京に行こう」と考え直した。
 横浜駅に行って、青森行きを駅員に尋ねた。「東京駅から夜行があります」と言う駅員。
「それに決めた。ここまで来たら、野となれ山となれだ」
 横浜駅で切符を二枚買った。しかし、東京駅二十四時三十分発盛岡行き乗換。青森駅に朝九時に着くと須磨子さんの従弟に電話した。
 ここで、千年太郎と須磨子さんはとんでもないウソをつく羽目となる。青森の須磨子さんの従弟は、叔母さん(須磨子の母)を知っていた。須磨子さんの母が天理教の大祭に来たときは、西も東も解からない訪日だった。だから従弟は、須磨子さんの母親を奈良まで迎えに行き、京都駅から青森駅までの切符を買って乗せてあげた。そんな事が過去にあって、千年太郎とはその場しのぎの夫婦に早変わり、訪日の旅とした。
 そんな時、両家の写真は交換済みである。だが千年太郎も須磨子さんも実物を知る筈が無い。しかし幼い時の事を覚えていたらしく両人とも初対面で会える喜びで待ち構えて下さる事と成ったのである、千年太郎は須磨子の望み通り、夫婦に成り済ます事と相成った。
 時は一九九二年七月二十四日であった。二十四日朝九時、青森駅に降りた。森沢の従弟とはすぐに分かった。ご夫婦で出迎えてくれた。そこでは初めて顔見る従弟同志、話に不自由は無かった。
 そこで二日間、弘前城やねぶた祭りの山車保存庫等など文化保存施設を、従弟の車で一巡り。名物料理を頂いて、須磨子さんは陰ながら最高の新婚旅行が出来たと有頂天で喜び、千年君も青森見物中は決して仕事の事は口にしなかった。
 そして翌々日、青森駅から、秋田、新潟,経由の寝台特急新大阪駅行きに乗り込み、新大阪駅に降りた。それから「どうしよう。ついでに九州に行こう」と博多まで新幹線に乗り、それから鹿児島に向かった。
 しかし、九州は千年の故郷であるが、ご想像の通り素通りするしかなかった。帰りは日向宮崎に寄り、別府温泉に一泊。それから北九州市小倉駅から新幹線で、岐阜羽島駅から飛騨高山温泉峡へと、一応、千年君が日頃、姉妹都市交流などで関係のあった街をめぐった。
 そして岐阜市に戻り、金華山城見物。長良川ホテルに投宿、名物鵜飼を楽しみ、名古屋へ。名古屋では名古屋城はもちろんだが、大東建設の支店があり、あるいはお世話にならないとも限らず、目黒本店の専務さんの勧めもあって、ご挨拶に立ち寄る事にした。
 タクシー運転手に「大東建設中部支店」と言ったら、何にも言わずに十分足らずで着いた。これまた本社専務の連絡があったらしく、丁寧なおもてなしを受けた。ところが帰り際、席を立った途端、支店長さんが「これは、折角お立ち寄り頂いて、大したもてなしも出来ず失礼した。これは些少だが、電車の中でコーヒでもお飲み下さい」と差し出した封筒は厚く、お礼を言って頂いて、新幹線の人と成った。
 そして電車の中で驚いた。ここの支店長さんは数年前、岐阜市のある会社の依頼で、千年君がサンパウロの知人に出稼ぎ希望者を募る要請を受けた事が有った。

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