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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(44)

 特に専務は、「これからの君に期待されている特大有望地区なのだ。ここを二週間、君と周り、俺の全ての知識は一応説明した。だが、これからは君が奥さんにも教えながら頑張りなさい。そして早く軌道に乗せて、新入営業マンを二、三人抱える様になれば、奥さんなんか働かせなくてブラジルに錦を飾って見せなさい。この仕事は男冥利に尽きる。美味しい(素 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(43)

 何にも知らないのは千年太郎一人。彼女(森沢須磨子)と千年の経緯(いきさつ)を全部知り尽くして対応されているのには、また驚く千年だった。 「だとすると、なぜなんだ?」と自問した。要は自分の力量だけが目的なのか。「『株式会社・大東建装』は実力、実績本位の企業なのか、昨今国内外で話題の企業改革の一端なのかも知れない」と勝手に思い込む ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(42)

 「いかん、いかん。俺は一体なにしに来たんだ。女房の静江や子供を何とする。いかん、いかん。そんなお前じゃないだろう。どうした、どうした」と太郎は自分の頭を自分で叩きながら自問した。 自業自得で人様に笑われて、家族に悲しい想いをさせる自堕落を何とする。自分のふがいなさに、一人思い切り泣いた。そして太郎は肝に銘じた。 ここで生まれ変 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(41)

 その頃、再三、岐阜市を訪問していた千年君。そのついでに大阪の企業のお膳立てで、ブラジルからの「出稼ぎについて」と題した講演会に招待された。そこで出稼ぎ事情をお話したが、その席に彼の支店長さんが出席していたようで有った。そんなことを書いたメモが、現金五万円と共に例の封筒に入っていた。つまり大東なる建設会社は、数年前からブラジルに ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(40)

「なんだって、青森かい」「あなた青森に行きましょう」「青森は、ちと遠いよ」 しかし千年は、「しかし、待てよ。ホテルに泊まるより良いかもね。そうだ青森にしよう。そうだ、まず東京に行こう」と考え直した。 横浜駅に行って、青森行きを駅員に尋ねた。「東京駅から夜行があります」と言う駅員。「それに決めた。ここまで来たら、野となれ山となれだ ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(39)

 二人が降りると、待ち受けていた一人がうやうやしく、「さあ、こちらへ。お荷物は事務所にお届けして置きますから」と、まるで5つ星ホテルでボーイさんから丁重に扱われているような歓迎を受けた。 エレベータで十二階の事務室へはいった所で、女性事務員が「どうぞ、こちらへ」と先導してくれ、応接室のドアをノックした。中から「どうぞ」との声。  ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(38)

第六章 さて、あれから二年半、千年君がピンチの日本へ夜逃げ、二年半まえの前述のお話に繋がる。 バリグ航空機に乗り込み、飛行機が水平飛行になった途端、「千年さん」と声掛けられて、度胆を抜かれた。須磨子さんに助けられて、千年君は五年が経っていた。 ところで話を中断しましたが、五年前の経緯に戻ります。さぁー、千年君どうする。飛行機は空 ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(37)

 さもありなん。彼女は父親が有名な職人気質の庭園師で、名の知れた厳しい人。質素倹約を旨とした、誠に大和民族の誠心を子孫に残すのが趣味みたいな人物の頑固おやじ。子供たちにも厳しい人と噂があった。その家族の長女である。根性も座っていた。美人だが中小企業庁の公務員と聞いていた。 千年太郎の活動は、どうやら軌道に乗り、多忙な日が続いてい ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(36)

 千年くんは素直に「解かりました」というと、二人で支店長室に這入った。「支店長さん私は、ブラジル語が充分話せません。失礼があってはイケませんので、森沢さんに詳しく説明して頂きますがよろしいでしょうか」「おお解かった。森沢さん聞きましょうか」 森沢さんが流暢なブラジル語で話し始めたが、太郎君には森沢さんの説明は半分も解からなかった ...

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自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(35)

 結果は、最初から解かっていた通り、万事休す。一時、お先き真っ暗に。これも自業自得の定めかと、サー、何とする。農家に支払うお金はゼロであり、品物の仕入れも完全にストップ。打つ手なしのこのままでは、帰るところもなし。 「ままよ」と、とりあえずコーヒー一杯。 俺の人生もこれまでかと、あるバールにふらりと這入った。気付くと奥のカウンタ ...

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