ホーム | 文芸 | 連載小説 | 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎 (ページ 3)

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(24)

 そして「今日はおばさんいるかな」と文雄君が家の中を覗いている。すると返事もしないで顔を出した娘がいきなり、「まあ文ちゃん、今日はなにごと?」「ちょっと通りかかったもんで、声を掛けてみた。おばさんは?」「ここだよ。まぁー久し振りじゃないの。文ちゃん。お母さんやお爺ちゃんは元気かい?」と誠に親しみのありそうな会話に、太郎は親しみを ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(23)

 その翌日は日曜日であった。本日は非番になっていたので昨夜の分まで寝ていようと、思っていた矢先、朝早く玄関のチャイムが鳴りだした(注=この時分には新築の場長住宅に入居していた)。 眼をこすりこすり、窓を開けてみると、上野文雄君が「もう九時ですよ。今日はどうしても行って貰わないといけないので迎えに来ました。外で待ってます」という。 ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(22)

 矢野養鶏部長さんから「今後は千年太郎君によろしく頼む」と、一度だけ連絡が来て、その後は業務連絡だけ。後は木村場長着任以前に逆戻り、何とも悠長な時代では有りました。 ところで彼の生まれついての信念は「成せばなる」。そこらが並みの人間ではなかった。たったの一年半で見事「採卵養鶏用」、雛(ヒナ)の生産出荷体制を整えたのであります。サ ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(21)

 その土曜日が来た。午後二時、場長から「千年君、これから木村君とこに行くぞ」と迎いに来た。お断りする理由もなく、木村場長の強(し)いてのお誘いである。木村さんとも大変気の合う人で、一度、大塚氏に逢って置きたかったのは、千年君も同じではなかったか。 「では参りましょう」とジープに乗り込んだ。その頃、ノロエステ奥地はマット・グロッソ ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(20)

 矢野養鶏部長が「千年君どうかね、良いところだろう」と訊いた。「ハイ驚きました。随分広いですね。しかし、これだけ広けりゃ、気持ちが良いですね。でも、ちと気になりましたが、あのマモンは(果物)は切ってもよろしいですか。あれは鶏には外敵だと思いますが」「ほう―、良く気がついたな。さすが千年君だ。今から予防を始めるとは。我々も見込んだ ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(19)

 入ってまずビールを注文。「何かおつまみは」とガルソンが聞く。奥地のフランゴ(若鶏)のから揚げを注文した。昼間の余りにも美味しい味に釣られたのである。でも、出てきたから揚げは、鶏は鶏でも鶏の味が違う。これが当たり前の味なのだ。 グイグイ遣っていたら、ガルソンが遣って来た。「セニョール(貴方)はどこから来たか」と聞く。「サンパウロ ...

続きを読む »

日本移民108周年記念=囚人の署名 平リカルド著 (翻訳)栗原章子=(7)

 そんなわけで父親と「兄さん」の仲はますます険悪なものとなっていった。いつも言い争いが絶えなかった。兵譽は町に出て、現状に不満をもつ人々の仲間入りをするようになっていた。 「笠戸丸」から二〇年以上も過ぎ、サンパウロ奥地の農村地帯では、日本からの移住者は力を合わせて会館を建設し、体育館も建て、スポーツを楽しみ、祭りや宗教行事、政治 ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(18)

 どうやら朝のコーヒー(軽食)なのだ。何とテーブルの上には、大きなスイカとかマモン(マンゴ)とか、色ずいたバナナに、自家製らしいパンが山と出してある。果物、パンはさすがブラジル、上手に出来ていた。しかし牛乳とバターは匂いが強くて、手を付けられなかった。 さて長々と日本の家族の話をして、又井出利葉さんの移民人生「喜怒哀楽談義」を夢 ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(17)

 太郎は「おじさんたち、井出利葉さんですか」と尋ねた。「そうじゃが何か」「ああ、良かった。僕はおじさんを探して、サンパウロから来ました。井出利葉さんは「ふうーん、こんな所に用のあるようなもんにゃ見えんが。家はそこじゃけん、一寸来なんせ」。そう言って、馬の手綱を緩めた。馬車は自分のうちへと歩き出した。 太郎は小走りで後ろをついて行 ...

続きを読む »

自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(16)

 そして1960年、いよいよ独立の機運到来では有ったが、行方家の家庭事情、経済事情で、青年達にまで支援援助は至難である。よって「それぞれのプラン計画、望みによって、身の進路を考えてもらいたい」と行方正次郎氏ご本人から説明があり、真心籠もったお話に、今の自分の立場では、パトロンとは言えども甘えすぎと決心、この際じっくり考えようと流 ...

続きを読む »