自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎

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     さて、千年太郎青年は、岩下ご夫妻の親愛なるご指導ご鞭撻により、岩下家の主生産品のトマテ(トマト)生産出荷に向けて、頑張って行く。五、六ヶ月はアッと言う間に過ぎた。ところがここで予想だにしなかった事態

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     その間、千年さん、瞬き(まばたき)出来たかどうか、茫然としていた。姉の玲子さんが、後を追ってきた愛子さんと二人で、こちらに手を振って、家の方へ消えて行った。 この一瞬の出来事は、千年の生涯でも、忘れ

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     楽しい時間は早いもの、何と午前様とあいなった。一同休ませて頂く事にした。新コチア青年二人はかなり「ご銘亭」。ベットに横になったかと思ったら、二人で高いびき。朝までぐっすり。パトロンの計らいで朝寝が出

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     感慨深い、第一歩をまさにふみ出したのだ。ブラジルの原始林の真っただ中の、素朴な住まい。飾り気ない寝室だが、彼らが夢に向かって突進する居城なのであった。 ここが千年太郎、野口節男、二青年の雇い主(パト

  • 自伝小説=月のかけら=筑紫 橘郎=(11)

     いよいよ、千年(ちとせ)太郎君の名が出た。次いで野口節男君、二名はピエダーデ郡在住の岩下与一さんへと指名され、岩下氏は手を振っている。 千年君と野口君二人は、岩下氏の元へ深々と頭を下げて挨拶していた

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     まず出されたのはパンとコーヒー。コーヒーは正に本場であるから良しとしても、「パン」は余りにもかたい。それに「マンテーガ」なる乳製クリームと、「モルタンデ―ラ」を挟んだ「サンドイッチ」である。これがど

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     午前七時になった。移民船ぶらじる丸最後の朝食となった。日本的な雰囲気はこれが最後か。あと一時間で新天地、ブラジルの国土に踏み出す事となる。 朝食後は、自分の身の回り品を下船に備えねばならぬ。昨夜の内

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     さらに艦内放送でも「忘れ物のない様に慌てず、気を付けてゆっくりお願いします。アルゼンチン行きの方は、慌てないで自室でゆっくりお待ち下さい」と頻繁に流れていた。 それでも日本人は気が早い。昨夜から用意

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     侍従長役、やおらお立ちに成り、三名の侍従を従えて、先程ご登場の方角に退散なさいます。笹山部長は、侍従長殿退出後、海魚に(扮した)役者に囲まれて船員乗客から祝福をお受けに成られる。船長代理は航海許可証

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     何の呼び出しか、太郎には解からない。怪訝そうな目つきでふさぎこんでいた。太平洋上の酒盛りの一件が祟って、なんとなく不安だった。 あの酒盛り事件以後、皆の見る目が太郎には眩しく不愉快な日々を送るしか手

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