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実録小説=勝ち組=かんばら ひろし=(9)

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――ここで説明をしておかねばならない。第二次世界大戦終了直後のブラジル日系コロニアは、通信の不自由だった事情もあって、絶対多数を占める日本の敗戦を認めないいわゆる『勝ち組』と、後には勢力を増したが当初はごく少数のインテリ連に限られた敗戦認識派、いわゆる『負け組』とに二分された。
 勝ち組の中の過激派は、『臣道連盟』とか『桜組挺身隊』を組織して、敗戦の事実を早く一般に認めさせようとした『負け組』を強圧し、遂にはその中の何人かを襲撃し、殺害するに至った。ブラジル官憲がもちろんこの存在を放っておく訳はない。種々の防圧措置が取られた――。
 そして源吉の容疑は『桜組挺身隊』の主要関係者ということだった。だが源吉は事実取り調べのための地元警察からの出頭命令にガンとして応ぜず、逆に自分の屋敷の囲いを強化して外部との接触を絶ってしまった。
 黙ってこんなやり取りを聞いていた源吉がおもむろに話し始めた。
「俺たちはね、皆、日本人だという誇りがあったからこそ、今日までがんばって来れたんだ。カマラーダ(日雇い人夫)同様の下積みから抜け出して、ここまで浮かび上がってこれたのも、言葉も分からん、気色も違う外人の間に入っての苦労に『なにくそ』と耐え抜いてこれたのも、外の国にはない『大和魂』をしっかり胸に抱いて来れたからなんだ。我々の故郷、立派な祖国日本があるという誇りがあったからなんだ」
 それを今になって『日本は負けました。やっぱり日本人は白人にはかないません』と同じこの口で言わねばならないのか。自分の名前もろくすっぽ書けないカボクロや、今まで張り合って来た相手たちに『やはり我々の日本精神は間違っていた』と頭を下げねばならんのか。到底そういう気にはなれん。皆、そういう気持ちだろうと思うんだ。
 俺たちの生活は確かに貧しかったし、苦しくもある。しかし俺たちには外人よりも優れた日本という祖国がある。大和民族は世界に誇れる優秀な民族で、自分のもうけばかり考えている利己主義の他人種とは違う、こういう誇りを持って来たんだ。皆が外人達のあいだで生活して、日本人の代表の心算で行動して来たはずだ。この誇りと心の支えがあったればこそ、どんな苦労も障害も乗り越えて来れたんだ」
「そうだろう。戦争の結果がどっちであったにせよ、日本人としての魂、立派な祖国を持つ誇り、これを失ってはいかん。これを忘れて金と物ばかりを追い、人を陥れて自分の都合ばかり考える人間になったら、一体どこに日本人の特色が出せる。そんな芯なしは俺にはごめんだ。俺は最後まで立派な日本人として生きたい」
 このむしろ悲痛な言葉は、集った人々の心にずしりとひびいた。男達は自分達の考えていたことを明確に言われた気がした。
 異国の土地でずるがしこい外人相手に生きてきた男達には、この言葉に共感を呼ぶ経験が、それぞれ一再ならずあったのである。
 勝ったか負けたかの事実はどうでもよい。日本人としての誇りを失わず、自分の信じて来たことに忠実に生きることだ。

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