といっても、それっきりで、話題を持たない私は、やはり「枯れ木も……」の存在であった。しかし他の女たちも大同小異と思える。なのに近頃のマダムは私にだけ冷たい。それも段々、度を超えてきた。私はやっとあることに気付いた。
よく観察していると、大抵の女にはパトロンというものがついていた。その中でも「花園」をよく利用してくれるパトロンを持った女に対しては、マダムは気を使い、大事にしているのだ。その女の器量が少々悪かろうが、仕事を怠けようが、関係ない。彼女たちこそ、店の売り上げに繋がるからである。
このように、私は、誠にパッとしない存在であった。が、一応、収入はある。お陰で父母の家には、子供たちの養育費が、一銭でも多くなるように仕送りすることが出来た。母は、半分でいいと言ってくれるが、頑張って続けていったし、反対に心から済まないと思った。とはいっても、最低、着物だけは買わなければならない。なので食費を削った。いつもひもじかった。
そんな時である。ひょっこり「花園」へ信が現れた。彼は言った。
「もう三ヶ月も、電気代が払えんぜよ。電気は止められるし、あっちこっち借金だらけになっとるぜよ。何とかして貰えんか」
私は一も二もなく、有り金全てを彼に持たせた。
(数年後、ひょっこり信に街で出逢った。『あの時は、ものすごくありがたかったぜよ、ママイ(お母ちゃん)』)。
信の口から、家族でいた頃は聞いたこともない言葉、『ママイ』それも自然に出ている。そうなると、不思議なもので、私自身、彼に対して肉親のような情が湧いた。別れてやっと互いに親子になったのか。
「花園」には、女たちが軽く食べられるように、食事の用意がしてある。私は、この一回の食事だけしか食べてない。
ある日、N子という女一人が、この食卓に座っていた。みんな同時に席につくことは少ない。家で食事を済ませてくる娘もいるので。N子は黙々と食べている。見ると、美味そうな品は、殆ど消えて、めぼしい物が二、三個残っていた。側の私には目もくれず、その残りの数個も口へ入れてしまった! 結局、彼女一人で仲間の分を食べてしまったのだ。その日はサラダとご飯だけで、腹をなだめた。後でこのことを父に話すと、
「そういう娘は、盗みをするき、気いつけろ」と言った。
そのN子というのは、丸顔の大人しい感じで、胸のあたりの膨らみはなく、板のようになっている。が、他は普通の女。この女がある日、私と同室で寝起きすることになった。噂によると、彼女は「レスビアン」だという。みんなで私たちのことを、どうなるか楽しんでいるようだ。
最初の夜、床を並べてN子の横で寝た。複雑な気分の中で、二、三言葉を交わして、静かになったが寝つきにくかった。向こうも未だ起きているのは分かる。無事、朝を迎えたのはよかったが、この日からN子の機嫌が悪く、私に当り散らすようになった。
問題はそれからである。その三日後のことだ。
「今日は、おばさんが来るのね」と、誰かが言う。
おばさんとは、韓国人の洋服売りである。このおばさんは、なかなか客あしらいが上手く、高級品をどんどんツケにして、女たちへ売り捌く。そして次の月に金を受け取り、その日の分は又、次の月へとツケにする。