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ジャパン・ハウス=ブラジル人は何を期待しているか?=一カ月で来場客7万5千人=称賛と同時に、違和感も

連日賑わいを見せる同館

連日賑わいを見せる同館

 一般公開からおよそ一カ月―。ミシェル・テメル大統領や麻生太郎副総理の臨席の下で開館した日本政府の文化広報施設『ジャパン・ハウス』(平田アンジェラ館長)は、一般公開された初日2日間だけで来場者数が7509人を突破。その勢いは衰えることなく、1カ月間で7万5千人以上が来場した。連日賑わいを見せる同館を訪れた来場者の声を拾い、その成功の理由とブラジル人が今後同館に何を期待しているのかを探ってみた。

▼日本を知らなかったブラジル人に与えた〃衝撃〃

 「幻想的。想像を超える素晴らしい手細工の藝術の数々」と感嘆した様子でリリ・リズンドゥルックさん(80)が語るのは、同館の目玉企画展『竹―日本の歴史』だ。古来より重宝されてきた竹に着目し、約50点の作品群が展示されている。
 スタジオ・ジブリ制作『かぐや姫の物語』(高畑勲監督)の時代から、悠久の歴史のなかで培われてきた竹細工。そして、伝統と革新の調和により生み出された近未来を思わせる作品群は、緩やかな流れで日本文化の真髄に触れられる構成となっている。
 これまで日本文化と接点がなかったというアリッセ・クアドラードさん(72)も、「どういう思想的影響を受けているのかは分からないけど、一つ一つの作品の繊細さは見事。これまでに見たことがない」と手放しで称賛する。

一際注目を引く竹展示

一際注目を引く竹展示

 「多くの愛情や時間、努力が滲んでいる。竹でこんなに多くのことができるなんて。視野が開けたような気がするわ」と感慨深げに語り、必ずしも日本文化とは接点がなかったブラジル人にも衝撃を与えているようだ。
 目下、年間12万人の来場者目標がわずか2カ月で達成が見込まれるという盛況ぶりだ。その成功の理由について、平田館長は、「マルセロ企画長の着眼点が凄い。展示の価値を理解してくれているのでは」と語り、「中富裕層が高い関心を寄せている。大企業経営陣や映画俳優等も来館しており、噂が広まりさらに人が集ってきている」と見ている。

▼日本文学の真髄がアニメに

 同館関係者によれば、「一度訪れた人も、『素晴らしい』と友人に薦めて一緒に連れてくるなど、既にリピーターも現れ始めている」という。さらに、展示に関心を持ったブラジル人が、休日催されている展示関連のワークショップや講演会などを目的に同館を再訪しているようだ。
 同館の竹のシアター内で放映されている『かぐや姫の物語』に関連して先月行われたスタジオ・ジブリの講演会では、400人以上の熱狂的なジブリ・ファンが駆けつけた。そのほとんどが日本文化に高い関心を寄せる親日家のリピーターだ。
 イラストレーターで、訪日経験もあるというジョアン・エリアス・デ・ブリットさん(40)は「完成する前から、檜のファサードを見て何とは知らずとも日本的なものを感じていた」と言う。「まるで日本に来ているよう。地球の反対側にあって距離的に遠いが、多くのブラジル人がここで日本を疑似体験できるはず」と歓迎する。
 「ブラジルにどれだけのジブリ・ファンがいることか。同館で展示会を開けば、成功すること間違いないわ」―。そう語るのは、イラストレーターを志望するマリア・ルイザさん(19)だ。
 「アニメ業界全般が3D(コンピューター)に移行するなか、2D(手書き)は難しい市場。それでも、ジブリは人気を博し素晴らしい作品を世に出し続けている。とても描写が美しく気に入っている」とジブリ作品の手書きの魅力を語る。だがそれにもましてブラジル人が口を揃えるのが「物語の奥深さ」だという。
 子供の頃からジブリ作品を見て育ってきたというヒカルド・ジエゴ・ダ・シウバさん(24)は「子供心で見ても楽しいが、大人になってようやく理解できたことが沢山ある。『もののけ姫』では文明と自然の対立が描かれている。宮崎アニメに関らず、日本文学や漫画にも共通するのが、物語の奥深さだ」と語る。
 日本神話に興味を持ち、北海道への留学を機に日語を6年以上勉強しているというイヤカラ・サントスさん(30)は、「ポ語ではまだまだ日本に関する書籍は少ない。もっと日本のことを知りたいと思って日語を勉強し始めた」と語る。
 さらに「JHで見たいものは無数にある」と語り、村上春樹等を代表とする日本文学やアニメに対する強い要望が若者からは漏れ聞こえた。
 世界最古の長編小説である『源氏物語』から一千年以上に及ぶ文学の歴史を持ち、川端康成や大江健三郎などノベール文学賞受賞者を輩出するなど、日本は長い文学の歴史を持つ国だ。若者に人気を博している漫画やアニメもそんな歴史に根ざしたものと言える。
 古典文学から現代の漫画、アニメまで脈々と続く、繊細で豊かな日本人の感受性により生み出された日本文学の真髄に触れられるような展示会を行えば、幅広い層のブラジル人の期待に応えるものとなりそうだ。

▼『JAPAN・HOUSE』への違和感も

満員となった講演会

満員となった講演会

 同館の地上階にあるマルチメディアスペースでは、およそ1900冊の蔵書がある。写真や絵などビジュアルで堪能でき、同館で行う発信を超えた日本を見せることを念頭に選別されたという。ところが、ほとんどが日英語で書かれた書籍で、ざっと見たところポ語書籍はほんの数十冊。
 マギノ・エンヒキさん(25)は、「ポ語出版されている本が少ないという事情もあると思うが、英語では読めない人もいるのでは」と率直に語る。ポ語版で出版されている漫画も英語版が置いてあり、少なからず『JAPAN・HOUSE』に違和感を覚える人もいるようだ。
 実際に、日本文化を紹介する本がポ語で出版されているがほとんど置かれていない実情だ。ブラジル日系人作家協会の宮村秀光会長によれば、「日系人作家は出版まではたどり着くが、市場での販売促進に課題を抱えている」と現状に頭を抱えるという窮状も聞く。
 先月、中南米日系社会との連携に関する有識者懇親会で取りまとめられた提言書でも、ポ語による出版促進にも言及された。可能な分野で日系団体と協働し、知日派・親日派の育成に努めることは同館の目的にも添うものではないだろうか。

▼洗浄付トイレが目玉?!もっと現代的な姿も

 目玉企画展『竹―日本の歴史』の裏側で実は穴場となっているのが、ウォシュレット機能付のトイレだ。時折、トイレからは笑い声が漏れ、なかには「トイレに凄い技術がついているよ」と勧める人まで現れるほどだ。
 弁護士事務所に勤め、仕事帰りに同館に立寄ったエドアルド・オリベイラさん(29)は、「日本ではあらゆる所に優れた最先端技術が導入され、いかに都市が効率的に機能しているのかをテレビ番組で見たことがある。そういったものを是非実際に体感してみたい」という。ヒカルドさんも「知らない日本文化の側面もあったが、想像していたよりも伝統的だ」と印象を語り、「もっと現代的な姿を見たい」と口を揃えた。
 平田館長によれば、多目的スペースを企業に賃借し、ショールームとするようなことも可能という。例えばブラジル人が実際に商品を手にとって、手先の器用な職人技がなす日本の最先端技術に触れられる機会があれば、感覚的に分かりやすく伝わるだけでなく、進出を検討する企業にとっても一つの試金石となるはずだ。
 入場者数の数値目標の達成だけではなく、いかにブラジル人の興味を喚起する価値あるものを提供し、独立採算に向けた収益の柱を強化できるかが、今後の課題と言える。

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