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わが移民人生=おしどり米寿を迎えて=山城 勇=(19)

 そこで多久島さんは大連へ戻ることになり、私だけミーリアン部隊長の家で夫人のお手伝いを約6ヶ月間働かされた。彼は女の子1人の3人家族
だった。主食の黒パンやコロッケの作り方もその時に教えられ、早朝から家族になり切って、その家族のために働いたものであった。
 こうして敗戦による避難生活も早や2回目の秋を迎えた。部隊解散で行く手を失った闇夜の中で助け迎えられた多久島さん一家に対して私は、いかなる労働もいとわず働き、恩返しをせねばと常々思っていたし事実懸命に働いた。多久島さんは翌年末頃に日本に帰れるようになっているので、それぞれ古里に帰る準備をせよ、と告げられた。
 そう云われても準備するのは何もない。古着を洗濯して着替えればそれでよいだけのことだ。しかし、この多久島さんの家族となって2回目の元日、神酒と塩皿をもって1人ひとりに杯をしながら語る流儀で多久島さん曰く、「君たち若いから敗戦の悲しみ苦しみ、そして悔みを絶対に忘れてはいけない、再度挑戦しこの連合軍を撃滅勝利を期すべく頑張れ」と云う言葉を吐露した。氏の思いは、70年経った今も忘れられない。それに氏は若い頃に、大隈重信の召使や風呂焚きをしたもので、葉隠武士の薫陶を受けたとの話しを時たま耳にした。
 多久島さんは当時60歳前半の年齢だったと思う。長男は唯一日本の大学に勉強のため日本へ行って不在、女の子既婚1人を含め5名が両親と同居していた。その時神戸出身の崎浜と云う人と、石川県出身の石川と云う人と私と同年輩の青年等3名が居候となっていた。この3名は日本引揚げ時まで家族と一緒だった。たいした手伝いも出来なかったが、引揚げに際し主人からライターの石20個位土産品か報酬の意味か知らないが与えられたのには大変感動した。
 ロシア軍の狙撃から免れ助けられた生命の恩人多久島さんから土産・報酬など頂けるはずもない立場の私たちは、こうして日本に引揚げることができた。その恩義は生涯忘れることは出来ない。

 4 日本への引揚げ

敗戦から2年目の1947年2月の大連は、まだ零下4度の寒い日が続いていた。忘れ難い大連港からの帰国の乗船、残念にもその日は何日だったのか記憶にない。引揚げ船が航海中に1人の女性が乗客数人によってカンパンに呼び出され、散々に暴言を受け海に放り投げられんばかりに全乗客に顔を晒しものにされた事件があり、よく覚えている。確か彼女は、八路軍(中国共産軍)かロシア軍の威圧を同じ日本人に言い放って感情を害した張本人だったように思われた。引揚げ船に乗り込んだ途端に、この事件でもはや日本の国に入った気持ちがしてならなかった。寒風の吹きすさぶ海は波が荒れ船はゆれ、船酔に苦しみながら4日~5日でたどりついた佐世保は、岸頭に緑の樹木が一杯で春の訪れを告げているかに見えた。
 寒い大連から一挙に南下した引揚げ者は、地元の寒そうな人々のほほかぶり姿を見るにつけ、北国の寒さから解き離されて袖まくりあげて南国の温かさを味わい故国に帰り着いた喜びを噛みしめ楽しむのであった。

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