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国や言葉は違っても―繰り返す移民の歴史

 仕事を終え、帰宅したら、独身時代に家族と共に入った最初の植民地の知人を訪問してきた主人が、その様子を話してくれた▼80代半ばで松葉杖を手放せないという知人は、日本では農業をやっていたが、戦争中はやっととれた作物も軍に供するよう強要されてひもじい思いをした事や、それ故に移住を考えた事などを話してくれたという。「足が悪くて外出もままならぬが、何かあれば子供達も来てくれる。今が一番幸せ」と話していたと聞き、光明を見たが、戦争がいかに国民を苦しめたかを考えると心が塞いだ▼しかし、人々を移住に駆り立てる戦争や貧困は、今も各地に見られる。欧州などで問題となっているシリア難民はIS(イスラミック・ステート)絡みの内戦が背景にあり、大地震に見舞われた後のハイチからは、ブラジルにも大量の移民が流入した。ブラジルでも現在急増中のベネズエラ人移民は、圧政や暴力行為、食料や医薬品さえ確保できない程の経済危機といった諸問題に直面した国民が、解決策を求めて国境を越えたものだ▼だが、戦争や地震、政治的・経済的な危機を乗り越えるための移住が、成功や安寧を意味するとは限らない。冒頭の知人の場合は「幸せ」といえる状況に至ったが、移住当初はやはり辛酸をなめただろうし、ブラジルに来たベネズエラ人達は、収入が最低賃金以下という人が大半だという▼言葉も習慣も違う土地では、衣食住にも事欠く、ストレスに耐えかねて自殺する、事件に巻き込まれて殺される、親や親族の死に目にも会えないといった悲話も多い。幼少時に母国を離れた移民には、親とは別の苦労も付きまとうが、人生を振り返った時、「幸せ」といえる人生たれと改めて思わされる。(み)

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