ホーム | コラム | 樹海 | 伯国激動の時代を風刺した映画「バクラウ」

伯国激動の時代を風刺した映画「バクラウ」

「バクラウ」のポスター

 「激動の時代にこそ、芸術は生まれる」。そのようなことは昔から言われる。たしかに「為政者からの圧力が強かったがゆえに生まれた芸術」の例は古今東西、枚挙に暇が無いが、現在、公開中の映画で、伯国史上、初のカンヌ映画祭受賞作(審査員特別賞)となった「バクラウ」は、まさにそんな形容が相応しい作品だ▼舞台となるのは、北東伯にあるという架空の田舎町「バクラウ」。物資が足りてるとは言えない、人々の近所づきあいが濃厚な、あたり一面が野原という、いかにもな北東伯の田舎を象徴したようなこの町である日、不可解な連続殺人事件が始まる。それを行なっていたのは、米国や欧州で集められた謎の殺人組織。彼らは、バクラウを統治する政治家に雇われた勢力のようだ。彼らは計画に従って市民を銃殺していく。だが、バクラウの人々は想像以上にたくましく・・・▼この映画はあくまで完全に架空の話で、そこに実在の人物は出てこない。だが、そこで意識されているのは、明らかにボウソナロ大統領による、銃自由化路線がエスカレートした先の世の中だ。殺人組織の設定を「外国人」としているのも、親米保守路線を明確にしているボウソナロ政権への皮肉にとれる。中には、その殺人集団に雇われる伯人のスタッフが、伯国の中でも白人が多く保守的だと知られる南伯の出身者で、彼らが殺人集団から「君たちは俺たちほど白くない」と言われて小馬鹿にされるシーンまで登場する。それはあたかも、「欧米の真似をしたいのかもしれないが、伯人であることを忘れるな」というメッセージが感じられる▼バクラウの人々はかなり派手に殺人組織に抵抗するのだが、これが二つの意味にとれるものだ。ひとつは「銃から銃で身を守る時代の恐ろしさ」。そのことに対して警鐘を鳴らす意味があるだろう▼だが、もうひとつ見逃せないのが、これが同時に「北東伯の生活の伝統」を表していることだ。北東伯、そして北伯も含めてよいと思うが、これらの田舎町では伝統的に銃による自衛が行なわれている。それはボウソナロ氏に指摘されるまでもない話だ。また、20世紀前半に、今日にまで語り継がれる伝説の義賊「ランピオン」を生んだ北東伯だ。「自分たちの生活や生命が脅かされるなら、自分たちで守る」感覚は古くから存在する。この映画はさしずめ、親欧米流の保守主義的な圧力に、貧しいながらも誇りを持って戦う伯国民による反抗の映画、と言えるかもしれない▼いみじくもこれは、伯国内で現実に起こっている出来事の象徴でもある。昨年の大統領選でボウソナロ氏が唯一勝てなかった地域こそ北東伯であり、そこでの大統領拒絶率はなおも上がり続けている。また、この映画を監督したクレベール・メンドンサ・フィーリョは、前作「アクエリアス」もカンヌ出展作だったが、レッドカーペットで同映画の出演者共々、ジウマ大統領の罷免反対を訴えたことでも有名だ▼こうした伯国での社会、芸術の緊張状態を理解しているのがフランスだ。同国のマクロン大統領は、アマゾン森林火災の問題でボウソナロ大統領の環境問題での態度を強く批判し、世界的に有名になった。同国の世界的に有名な老舗映画誌「カイエ・ドゥ・シネマ」は発売された最新号で「バクラウ」を表紙にした。そこに大きく書かれた見出しは「ボウソナロの世の中を生きるブラジル」だった。(陽)

image_print

こちらの記事もどうぞ

  • 日本式とブラジル式の排斥、どちらがいい?2019年9月20日 日本式とブラジル式の排斥、どちらがいい?  「誰かが、誰かを排斥する」。これは現在の日本やブラジルのみならず、どこの国でも何かしら行なわれているものだ。その対象が国によっては「移民」になるであろうし、どこの国もその意味ではモラル上の問題を抱えている▼ただ、自分の生活の問題上、日本とブラジルで展開されている「排斥 […]
  • 開発行為と森林火災が先住民保護区を破壊2019年8月29日 開発行為と森林火災が先住民保護区を破壊  8月に入って急増中の法定アマゾンなどでの森林火災は、従来は伐採が禁じられていた所でも起きている▼一例はアマゾナス州南部のテニャリン族の部落だ。国立再生可能天然資源・環境院(Ibama)やシコ・メンデス研究所(ICMBio)と連絡を取り、保護区全域を監視していたのに、2 […]
  • アマゾン火災騒動への違和感を読み解く2019年8月27日 アマゾン火災騒動への違和感を読み解く  アマゾンが国際世論やネット上でも燃えている――熱帯雨林伐採も森林火災も放置してはいけない。きちんとコントロールしなければいけない。その部分は、はっきりと言いたい。  その上で、先週からのアマゾンに対する国際世論を含めたボウソナロ政権への批判に奇妙な部分があることを指 […]
  • 英語力が問われない駐米大使などありえるのか?2019年8月23日 英語力が問われない駐米大使などありえるのか?  「伯国政界をにぎわす問題」というのは、ここ数カ月というもの、様々な方向で激化の様相を見せているが、こと、「国際的に見ていかがなものか」と思わせる問題が二つ。ひとつは、世界の政界の国際的な流れを完全無視し、顰蹙を買いながら押し進めるアマゾンの森林伐採。そしてもうひとつが […]
  • 日本で一番、ブラジル日系社会の書籍出す無明舎2019年6月18日 日本で一番、ブラジル日系社会の書籍出す無明舎  「本にして残せば、その記録は永遠に生きていく、というのが私の信念です」――日本では数少なくなってきた地方出版、その雄ともいえる秋田県の(有)無明舎出版の安倍甲社長(あんばい・はじめ、69、秋田県秋田市在住)が着伯した14日に来社した際、そんな印象に残る言葉を残した。 […]