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《ブラジル》CIATEコラボ会議=「日系人就労者の軌跡と未来」=日系四世のWH制度も(下)

発表中の小林審議官

発表中の小林審議官

 8日の会議では訪日就労者に関する研究を行う専門家なども講演した。今会議のためにブラジルに訪問した尾崎正利労働研究所所長は「日本で事業活動を展開する日系ブラジル人就労者の軌跡」の中間発表を行った。

 

 

 在日ブラジル人就労者の日本における起業の傾向、発展の可能性を検討するものだ。在日ブラジル商工会議所『CCBJ』の会員8例を紹介し、日本の日系ブラジル人の事業傾向について分析を述べた。

 研究対象となったほとんどの企業が創業当時、業務請負を主要事業としていた。その後派遣業や人材紹介業に進出した企業が多く、例外として農業や土木建設、福祉・教育産業に進出するところも。

 尾崎所長は「近年では東南アジア諸国の研修生受け入れ仲介なども行っているが、日本の大手業務請負業者との競争に勝つのは困難。明るい未来ではないだろう」との見解を述べた。

 

 厚生労働省の小林洋司審議官は「最近の日系人の雇用情勢と政府の施策」について講演した。

 小林審議官によると、日本全体の就職者率は少子高齢化のため減少し続けており、2030年には790万人の就労者数減が予測されている。

 日系人の就労については「日語能力が非常に重要視され、離職した日系人の再就職は難しいとされている」と明かし、「有益な生活情報に接することができるし、就労者も日語能力の重要性を認識することが大事」と考えを語った。

 また、今年9月からは外国人向けに介護の在留資格ができたことを紹介した。日本の介護福祉士養成施設で介護福祉士の資格を取得すれば、介護の在留資格が与えられる。さらに今後、農業分野での外国人就労者受け入れが実施されるそうだ。

 

 発表後、質問が寄せられた日系四世のワーキング・ホリデー(WH)制度について「確定的なことは言えない」と前置きし、衆議院選挙の影響による解禁時期の遅れを示唆した。

 また、「同制度は日本と現地社会の『架け橋』となる人材を育成するという発想」と説明。日本で文化・就労経験を積み、帰国後、母国社会でさらに活躍してもらうというものだ。

 関心が寄せられた年齢制限、家族帯同については「帰国後の活躍を考慮すると年齢制限は定められるべき。また、今回はWH制度の仕組みを参考にしたいとの意向。家族帯同では『在留』になってしまうのでは、という心配の声が上がっている」と説明した。

 

 関西学院大学経済学部の井口泰教授は「日本における日系人就労者の現在」というテーマで発表。2002年から外国人集住都市会議アドバイザーを務めている井口教授は「地方では出生数、女性の数が減って自治体消滅を向かえて、ぴりぴりしている」と少子高齢化による地方の人口減少を指摘した。

 さらに、2030年以降の人口減少幅が年間50~60万にもなる可能性を述べ、「高齢者や女性の労働力を増やすだけでは労働力の確保は厳しい」と警鐘を鳴らした。

 労働力不足の原因については「賃金水準や労働条件、生活環境改良など外国人も含めた人材への投資不足」との考えを述べ、「外国人政策を『地方を甦らせる』という観点から重点化して欲しいと要望している」と語った。

 

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 CIATEのコラボラドーレス会議では現地の研究者やデカセギ子弟の体験も発表した。比嘉エヴァリスト神父は「日本の刑務所の日系ブラジル人を訪問して」について発表。CIATEで日語教師を務めるジョゼ・カラヴァリョ・ヴァンセッリ氏は「訪日就労者に対する日語教育」で日語学校などの生徒への日語教育との違いを指摘。デカセギ子弟で群馬県出身のナカザワ・ナツミさんは日本、ブラジルで生活した経験を語った。また、元ニッケイ新聞記者の田中詩穂さんは「ブラジルにおける代理処罰のその後」というテーマで発表。日本で犯罪を犯しブラジルに逃亡した訪日就労者のケースを紹介した。

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