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回想=渡満、終戦、そして引き揚げ=浜田米伊=(2)

 春になって一番に咲く花を、満語では迎春花(インチュウホワ)と言います。これが咲き始める少し前くらいには、昼間少し融け始めた屋根の雪が、夕方寒くなるとツララになってぶら下がります。しばらくこの時期があって、次第に暖かくなって種蒔きや植えものなどが始まるのです。
 満州は物々交換の国ですから、とれた穀物を合作舎に出して衣類(防寒具)と換えるのです。年に一度、お正月にはリンゴをもらいました。リンゴはカチカチに凍っていて、少しの間水に浸けて食べました。後で思ったことですが、あのリンゴは青森県から送って下さったものだったろうか?と。
 各家庭、日本馬が1頭か2頭、満馬が1頭、牛1頭は皆が飼っていました。だから飼料も夏の間に広い野原の草(ヤン草)を刈って乾燥させ、高く広く積んでおかなければなりません。広い広い満州では、それが充分に出来るくらいあるので大丈夫です。
 こうして広い曠野、よく土地の肥えた所で穏やかに暮らしている内に、すぐ隣にいた満人たちが敵となり、それからというものは、夜も逃げたり昼も隠れたりです。
 私たちの高北開拓団は、3部落に分かれておりました。私の家は第2部落でしたが、連絡するのが危ないからというので、全部本部(学校も本部にありました)へ集合するようにとの命令が下り、みながそれぞれ大切な必要なものばかりを馬車に積んで、列になって本部へと出発しました。馬車は頑丈なものでした。
 先頭が高北橋へもまだ着かず、後ろの端はまだ門を出てしまわない頃に、敵弾がピューピューパンパンと鳴り出したのです。
 すると誰かが「みんな後ろへ引き返せ!」と叫びました。私たちはもちろん、みな馬車を放って慌てて引き返し、貯蔵庫(冬の間、野菜を蓄えておくところで、地下に穴を掘りハシゴで中へ入る)の中へ大勢逃げ込みました。
 しばらくして、「もう心配ないから出てきても良い」という声を聞いて出て行きました。そして今度は後ろの残り物を積んで再出発するというのです。しかし今度は先頭を行くのが恐ろしいので、誰も行く人がいないのです。そこで私の父が「私が先頭を行きます」と言いましたら、皆がその後に並んで本部へと向かいました。
 不思議なことに、今度は何事もなく、道路の近くで働いていた満人がみな両手を挙げて降参していた事には驚きました。私たちが馬車で出発する前、馬に乗った警備兵が土壁の門から出たり入ったりしていたのを見て知っていたからでした。あの時確かに、もうすぐ出発するから襲うようにアビーザしていたのかなと、後で思いました。
 もちろん、私たち家族が先頭を行く時には馬車は一台もなく、馬一頭もなく、何の邪魔になるものもなく順調に本部に着きました。あの始めの恐ろしい光景は、ハチの巣をつついたようでした。皆が悲鳴をあげて逃げ込みましたから。
 先頭を行っていた家族は3人が大ケガをしたということを、ずっとずっと後で聞きました。話によれば、そこの娘さんは肩を切られて倒れ、嫁さん(ご主人はソレン)はどれ位のキズだったかは分かりませんが、重症を負い倒れていたそうです。少年は敵弾を足にうけ負傷したとのことで、それを見て先頭に出るのが恐ろしかったのだと思います。
 娘さんは、倒れている所を満人に助けられ、介抱してもらい、そこのお嫁さんになったとの事でした。少年は日本へ帰り、足に負った弾丸を取り出してもらったという事も後日聞きました。あの時、父が「先頭を行きます」と言って出発したのも、ご先祖様のご加護があったからこそと思います。

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