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どこから来たの=大門千夏=(61)

 皺もなく肌がつやつやして、長いまつげに青い目、形の良い肉付の良い唇、キュッとあがった口角、背中まであるカールした金髪、髪の色だけが変わった。時計が止まったように美しさも止まったままだ。
 店の商品の話になると急に骨董屋の厳しい女主の顔にかえり、一つ一つ説明をしてくれて、其のうえアメリカの骨董業界の話までしてくれて私を楽しませてくれた。一八、一九世紀の家具は今の若い人の生活様式に合わなくなったこと、その点ミッドセンチュリーの家具が売れるに違いないと睨んだ事、さすが商才のあるアナだ。
「ウワーすごい知識ね、アメリカでも骨董屋を?」
「ええ、でもあの男とは離婚したわ。慰謝料しっかりもらって帰ってきたの」とえらく自信に満ちて言う。
「へエー」…こんな時は、慰めるべきか、祝いを言うべきか、学校ではちゃんと習わなかったなァ。
「貴女は全然年を取っていないのね。昔と同じよ、美しいわ」
「私ね、今度四回目の結婚をするの」さっきの厳しい顔が急に緩んだ。アア成程、美しいわけだ。
「わー、おめでとう」
「ところでアンタの方は? あれから再婚したの?」
「してないわよ」というと彼女は信じられないと言った顔付きをしてじっと私を見つめて「まさか!」
 もう一度見つめてから、「本当に?」今度は頭の先から足の先まで探るようにじろーと目を移して、「あんた馬っ鹿じゃあないの! 女じゃあないの?」と叫んだ。
 その顔には軽蔑と憐れみとを交え私を見下した目をしている。私は急にうろたえてしまった。再婚しなかった事をこれほど明さまに馬鹿にされたのは初めてだ。
「私ね、今までの三回の結婚ですごい金持ちになったのよ…本当は離婚するたびに金持ちになったってこと。この店、一〇〇万レアル使ったの。女にとって結婚は事業よ! わかる? 事業よ!」と事業に力を込めて言った。
「……」
 昔、母が言ったことがある。私の夫が亡くなってからたしか二年目だった。
「再婚なさい。一人は淋しいものよ。これからの人生長いんだから」と何時になくしんみりと未亡人の母は優しく言った。さすが母親だ。
 その次の年、母は私を見て、
「あら、再婚しなかったの? それは良かった。賢かった。一人ほど幸せなものはないわよ、一人は最高!」と、ノタモウタ。
 その言葉をウのみにして、以来その最高の人生を送っていると自負していたが、あの時「結婚は事業よ」と教えてくれていたら…今頃は…。
 すっかり気落ちしている私に「見て」そう言ってアナはくるりと体の向きを変え、肩を私に向けて、そして両ひじで長い金髪を持ち上げた。
 「ね、うっすらと見えるでしょう、軽ーい整形のあと。リオでやったの。この先生すごく有名な人よ、女優がたくさん来ているの。紹介するから、あんたもしたらいい。絶対しなきゃダメ」最後の言葉は命令するように断言するように言った。
 ナルホド四回も結婚するためには、彼女なりに努力をしているのだ。努力なき私に「再婚の相手」が見つからなかったのは当然のことか。
 携帯が鳴った。
「あ、彼だわ」…耳に当てると、彼女は途端に優しい甘えた少女のような声を出し、体をくねらしてシナを作り、甘い声でウフフと笑い、片手で金髪を持ち上げたり、手の平を顎から首になでおろし、またクククと笑う。色気の香りが私にまで漂ってくる。

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